銭がなけりゃ*、誰もが働かなくちゃならないのか。あるいは働くことはいいことだというのは前提的に語られていい事柄なのか。というのは実はとても面倒な問題ではあります。
働くだの労働だのという枠や価値観の外側に存在する人たちは確実にいるわけで、そのことだけを理由に、今現実にある生が、極めて生き難いものになっていたりするなら、それは何とかされなくてはいけない。もちろん、生き難さを当事者研究することで商売になってしまったりするコトとか、子どもの自立支援における働く場をもつことと自立との関係など、色々なことがあるので一概には言えないのだけれど、働くという価値基準を前提しないほうがいいこともあるのではないか。あるいは、そのことでかなり楽になったり、ほっとできたりする人が当事者・家族・支援者を含め相当の数いるんじゃないか。
今月の生活書院の新刊、『知的障害者が入所施設ではなく地域で暮らすための本』の中に、とても印象的な一節があります。働けるうちは働こうと思っている軽度の知的障害者に、ある支援者が語りかけたことを、その障害当事者が振り返ります。
「○○さんは、働かないという方法もあると、言ったけど、どういう意味だろう。自分の中では頑張っているつもりだけど、頑張っていないように見えるのかな。どういうつもりで言ったのか。近くに引っ越してきたら? 働かない方法もあると。元気がないからと言っていた」
こうしたことは、色んな人たちが色んな形でかなり前から考えてきているわけですが、ベーシック・インカム、反貧困等々、今、あらためて議論の場に大きく取り上げられつつもあります。ただ、所得保障の問題と「働かない方法もある。元気がないから」という声かけとは、扱っている中身がどこか違う気もするのです。どんな人であれ、どんな状態であれ、所得を保証せよということと、働かないということもあるということ、どちらも大事だけれど、少し分けて考えたほうがいい気もする。当事者・支援者がすぐに使えるマニュアルでありつつ、そんな事も考えるきっかけになる、とても中身の濃い本です。
というわけで、9日から10日にかけて、Tは広島のピープルファースト全国大会に参加します。
参加予定の方、ブースも出しますので、是非のぞいてください。
PS:木村晴美さんの『日本手話とろう文化』→自主制作版DVDが出ました。生活書院も木村さんからお預かりしていますので、ホームページからご注文いただけます。
『日本手話とろう文化 DVD』と明記してお申し込み下さい。1巻税込み1800円です。
本と併せて買っていただくと、日本手話の勉強も出来ます!
* 高田渡さんの名曲。2nd『汽車が田舎を通るそのとき』では「ゼニがなけりゃ」とカタカナ表記だが、3rd.『ごあいさつ』では「銭がなけりゃ」。曲も高田渡となっているが、どう聴いても、ウディ・ガスリーの「Do Re Mi」なのは有名な話。そんなこと言い出したら、渡さんの歌は「原曲はあれ」というのは一杯あって、それはどうでもいいことなのです。