オレハアナタタチニナンカダイヒョウシテホシクナイ
岸信介が、往時、日本敗戦後の艱難の中を生きる、在米日系人に対し言い放った言葉を、たまたま見ていたNKH教育TVの番組で聞いた。
それは、在米日系人が、日米の溝を埋める存在となりうるかということについてだったが、岸はこう語ったという。
「日本で政治家なりえたのはみな華族なり武士の出である。移民は経済的落伍者であって、日本の立場を代表できない」
そして麻生太郎氏は……。
――「総務大臣に予定されておる麻生政調会長。あなたは大勇会の会合で『野中のような部落出身者を日本の総理にはできないわなあ』とおっしゃった。そのことを、私は大勇会の三人のメンバーに確認しました。君のような人間がわが政党の政策をやり、これから大臣ポストについていく。こんなことで人権啓発なんかできようはずがないんだ。私は絶対に許さん!」
野中の激しい言葉に総務会の空気は凍りついた。麻生は何も答えず、顔を真っ赤にしてうつむいたままだった。――
こう書いてある、魚住昭さんの『野中広務 差別と権力』を、週間朝日誌上で評して、永江朗さんが、重版を重ね文庫にもなっているこの本のこの記述に対し、未だに麻生氏側が何の訴えもせぬということは、麻生の差別発言はまぎれもない事実だろうし、だとすれば麻生太郎を総理として認めるわけには断じていかない、といった趣旨のことを書いておられた。
「118年になんなんとする、憲政の大河」だかなんだか知らないが、こんな人たちが総理だ宰相だと持ち上げられキャーキャー騒がれて、本当にいいんだろうか。失言でも放言でもなく、彼らなりの、揺るぎないそしてとんでもない本音であり資質であろうに、なぜ大手のジャーナリズムはこうした根本的な問題をとり上げないのだろう。
岸の孫とか、吉田の孫とかいって、「きみたちとはもとが違う」とかなんとか思っているんだろうが、
<オレダッテソンナクダラナイヒトタチノナカマナンカジャゼッタイニナイシ、ダイヒョウサレタライヤダ>
とまあ、久しぶりに少しむかっ腹がたちましたが、それはさて措いて、新刊が出ました。
山下幸子さんの『「健常」であることを見つめる』、70年代、青い芝やグループゴリラで何が生み出され、何が問題となり、そして80年代以降に引き継がれ、くり返し悩みとなり、語られ行動されてきたこととは何か。山下さんの生真面目さがとてもいい形で結実した、読み応えのある本です。「緊急あぴいる」をはじめ、当時の貴重な資料も巻末に収録しています。今月10日までには書店に並びます。是非ご一読を!