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2010年10月 アーカイブ

2010年10月19日

少しひっかかるということについて

2006年のことだから5年も前になるのだが、はじめて「べてるの家」の講演会に行ったときに書いたメモ書きがある。少し長くなるが、貼ってみる。


3月11日の土曜、当事者研究で名を馳せている「浦河べてるの家」の講演会に出かけてきました。この日が「生べてる」デビューだったのですが、Mr.べてること早川さんの存在感と、川村先生の「治さない、治し過ぎない精神科医療」の話には、多少、活字での予備知識があったとはいえ、やはり圧倒されました。
とくに、「四丁目ぶらぶらざ」を紹介する中での、「ぶらぶら族をやるのも大変、図書館で勉強しないといけない」、「働くことが似合わない人もいて、そういう人こそ地域の潤滑油になれる」といった話や、「昔は『7病棟上がり』と差別されたが、今は街のみんながジェラシーの目で見ている」という話、あるいは、まとめとして出された
●「障害」の視点から「阻害」の視点へ
●「力が無い」のではなく「力を出せない」、「出しにくい状況」
●当事者がかかえる症状や生きづらさへの自己対処の可能性
といった論点など、厳しい差別にさらされた過去と、自ら「当事者学の夜明け」と言い切る、自信に満ちた現況とが、切断されることなく語られ、自分のみっともない日常に喝を入れられた気がしてきます。(略)
会場も、精神障害の当事者、家族が中心で、地域での自立生活へ向けた知恵と勇気(違和感があるけど、他に言葉が出てこない)をもらいにやって来た、という熱気にあふれていました。
何も問題はない、すばらしいのですが、少しひっかかるものがある。今もそれを自問しているのですが、おそらく、それはこんな感じです。やっぱり、ぶらぶら族だけじゃ成立しないんじゃないかという漠然とした疑問。あるいは、ぶらぶら族とあえて名づけ、押し出すというやり方の、かっこよすぎる感じ。それに伴っての、当事者主体の立ち顕れかた。「べてるの家が獲得してきた言説空間を、広く伝え共有化していく」という、お話に何の文句もないのだけれど、みんなべてるみたいにやろうよとなった瞬間から、抜け落ちていくもの、たとえば、まったく上手くいかなくて、イライラばかり、憎しみと裏切りばかり続いてきたかもしれないけれど、確かにあったし、今もあるだろう、他の人たち、他の空間での「生きづらさ」の経験。そしてそれらの事が何か言いにくい、出したらいけないかのような会場の雰囲気(もちろんこれらは「べてる」のみなさんに責が求められる話でもなんでもありません)。ひねくれもののやっかみかもしれないけれど、この辺のことも含め、べてるの家から発信されているものの意味を、今一度じっくりかみしめてみたい。そんなふうに、思いました。


というようなことを、当時の私は思った(らしい)。久しぶりで読んでみると、とんちんかんでもあり、印象ばかりで何も言っていないに等しい、それはそうなのだが、「ひっかかる」ことについて、その後いわゆる「べてる本」をいくつかは読んだ上ででも、私の印象は大きくは変わっていないことに気がつく。語弊はあるかもしれないが、すきだらけと形は見えるけれど、実は常にトップギアに入っていて全力疾走、そしてなんとなしにみなさん少し疲れておられるようなとでも言えばよいか……。もちろんこのような印象自体間違っているのかもしれないし、浅薄な読みからきているのだろうことは前提した上でなのだが。

もし、うちが「べてる本」を出させていただくことがあるなら、多少はそれまで出ていたものとは違うものをと、漠然と思っていたときにお話があったのが、2009年に刊行させていただいた、浮ヶ谷幸代さんの『ケアと共同性の人類学』で、いつも宣伝で言っているのだが、早川さんも川村先生も向谷地さんもあまり出ては来られないからこそ、逆に浦河の町の実際の姿が浮かび上がってくる本になっていると思うし、まあじわじわじわじわとではあるが、読者も得つつある。
ある突出したものが出現し影響力を拡げていく上では、直接そこに入り込んではいかない人たちやさまざまがことが周りにたくさんあって、当たり前だけれど、今でもそれはそうだということが見えてくるだけで、私などは逆にほっとしたりするのであります。

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