医療者が「社会学する」とはどういうことか
患者の語りを聴くという問い
慢性うつ患者の自己管理を捉え返す
医療者である筆者が、当事者であるがゆえに解決できなくなった患者の語りを聴くという課題に「社会学する」ことによって、違和を異和へと展開しようと取り組んだ試行錯誤の成果。
【目次】
まえがき
序章 なぜ患者の話を聴くのがつらいのか――病院から地域へ
1 精神科病棟での経験――「治療」と「管理」の場
2 精神科デイケアでの経験――「拒否する主体」との出会い
3 看護学修士論文での経験――「混沌の物語」への違和感
4 訪問看護での経験――「場」の違いと看護の内容
5 看護教員としての経験――自分の過去の葛藤と同型の葛藤
6 社会学研究科での経験――「医療者としての自己」の揺さぶられ
7 分析対象の拡大――「患者の語り」と「医療者としての自己」
第1章 先行研究の検討と研究方法
1 問いの社会的背景――転換期の精神科医療
2 先行研究の検討
2-1 セルフケア論
2-2 慢性疾患患者の経験研究と病いの物語論
2-3 障害学と当事者研究
2-4 患者の主体性の発見と医療的枠組みへの問い
3 再分析の概要
3-1 再分析の対象
3-2 再分析の流れ
3-3 再分析の方法
第2章 自己対処も援助希求もせず無責任に聴こえた語り
1 分析視点:ストラウスの「戦略」
2 事例の再分析
2-1 調査協力者の概要
2-2 うつに関する主治医との意味づけのズレ
2-3 「分かってくれる人/分かってくれない人」に二分化する戦略
2-4 自殺未遂を契機とした周囲の人たちの応答
3 考察
3-1 Cさん視点の「他者を二分化する方法」
3-2 医療者視点の「他者を二分化する方法」
3-3 Cさんと医療者の捉え方のズレ
3-4 医療者が患者の〈自己管理〉の物語を聴くために
第3章 自己対処に頼りすぎているように聴こえた語り
1 分析視点:クラインマンの「説明モデル」
2 事例の再分析
2-1 調査協力者の概要
2-2 他者を二分化する語り
2-3 家族関係に対処するための専門知識
2-4 精神医学的診断と自己診断
2-5 Eさんの説明モデルとは何か
2-6 Bさんの説明モデルとは何か
2-7 どのような説明モデルだったのか
3 考察
3-1 インタビュー当時の違和感はどうなったか
3-2 〈自己管理〉の前提としての説明モデル
3-3 医療者が患者の〈自己管理〉の物語を聴くために
第4章 他者に依存しすぎているように聴こえた語り
1 分析視点――クラインマンの「ヘルスケア・システム」
2 事例の再分析
2-1 調査協力者と方法
2-2 他者を二分化する語り
2-3 Aさんが構築したヘルスケア・システム
2-4 Dさんが構築したヘルスケア・システム
2-5 Fさんが構築したヘルスケア・システム
3 考察
3-1 インタビュー当時の違和感はどうなったか
3-2 慢性うつ患者が構築した民間セクターの特徴
3-3 医療者が患者の〈自己管理〉の物語を聴くために
第5章 うつ病言説と慢性うつ患者の語り
1 分析視点:北中の日本のうつ病言説の変遷
1-1 心身一元論的鬱病観(前近代)
1-2 遺伝性の強調と神経衰弱言説(戦前)
1-3 病前性格・状況論(戦後~一九八〇年代)
1-4 過労の病と実存的な病(一九九〇年代)
1-5 脳神経化学的な病と認知のあり方の病(二〇〇〇年代)
1-6 人格の病と生産性の病(二〇一〇年代)
1-7 小括
2 事例の再分析
2-1 うつ病言説を踏まえた語りの類型
2-2 小括
終章 慢性うつ患者の自己管理と「混沌の物語」の捉え返し
1 慢性うつ患者の自己管理の捉え返し
1-1 自己の喪失を防ぐ〈自己管理〉
1-2 患者視点の〈自己管理〉と医療者視点の〈自己管理〉
1-3 〈自己管理〉の起点としての「他者の二分化」
1-4 患者視点の〈自己管理〉の三要素
1-5 〈自己管理〉と「自己管理」の構成原理の違い
2 医療者は患者の「混沌の物語」をどのように捉えたらよいか
2-1 「生き延びの物語」とは何か
2-2 「混沌の物語」の二つの側面
2-3 結末のない「混沌の物語」を否認しがちな医療者
2-4 結末のない話を「生き延びの物語」として捉える
あとがき――違和から異和へ
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