結論から言えば、日本のドラッグ問題は深刻である。
しかし、その深刻な状況は、法的秩序が関知しない地帯で生じている。

ドラッグと刑罰なき統制

不可視化する犯罪の社会学

本田宏治【著】

[定価]   本体3,000円(税別) 

[ISBN]978-4-903690-69-8
[判型]四六判上製
[頁数]336頁

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結論から言えば、日本のドラッグ問題は深刻である。しかし、その深刻な状況は、法的秩序が関知しない地帯で生じている。
逮捕・拘禁しないままに、彼らの《生》を実在未満の存在として生きるままにしておく地帯が――おそらく相当おびただしく――存在する。ドラッグを使う本人が加害者であり、被害者でもあり、その行為を希望する人間でもある場合、被害者という立場のみを強調することはできない。しかし、ドラッグによって「被害者」となるのは、ドラッグを使う本人だけではない。使用者本人ではないにも関わらず、生きづらさの重圧に巻き込まれる当事者が隠されている。それは犯罪者の「家族」、ドラッグ使用者の「家族」である。そうした人びとの問題を明るみに手繰り寄せていくことが、ドラッグ問題の構造的ひずみを解き明かす鍵となるはずである。

【目次】


序章
問題の在り処について
本書の構成

第1部 諸外国と日本

第1章 米国のドラッグ政策──ドラッグ・アディクションからの「回復」をめぐる治療プログラムの版図から
 1 はじめに
 2 「回復」をめぐる観念について
 3 12ステップとオルタナティヴ・リカバリー
  3-1 12ステップ
  3-2 オルタナティヴ・リカバリー
 4 12ステップとオルタナティヴ・リカバリーの対立点
 5 ドラッグ・コートにみる治療プログラムの版図について
 6  おわりに

第2章 ドラッグ使用者を「数え上げ」、「飼いならす」ドラッグ政策──ハーム・リダクション政策の権力構造について
 1 はじめに
 2 ハーム・リダクション政策におけるドラッグ使用者の主体像について
 3 ハーム・リダクション政策の成立経緯
 4 ハーム・リダクション政策の主要戦略
  4-1 注射針交換プログラム
  4-2 メサドン療法
  4-3 ヘロイン処方
  4-4 薬物消費施設
 5 ハーム・リダクション政策における権力構造
 6 ドラッグ使用者を大量に〈数え上げ〉るということ
  6-1 〈数え上げ〉のテクノロジー
  6-2 ドラッグ使用者の「絞り込み」
  6-3 自発性にもとづく「誘い込み」
  6-4 秩序の先取り
 7 「関係性」という新たな「危険」
 8 おわりに

第3章 日本のドラッグ政策と刑罰なき犯罪統制
 1 はじめに
 2 従来のドラッグ問題の言説
 3 日本のドラッグ問題の歴史と現状
  3-1 第一次流行期
  3-2 第二次流行期
  3-3 第三次流行期
 4 世界49ヵ国の薬物事犯受刑者数の動向
  4-1 薬物事犯の受刑者数(実数)
  4-2 薬物事犯の受刑者数(人口比)
  4-3 受刑者総数と薬物事犯受刑者数の横断比較
 5 国際比較にまつわる誤謬
 6 ドラッグ使用者を不可視化するテクノロジー
 7 〈閾下〉のテクノロジーについて
 8 おわりに

第4章 被害者化する社会
 1 はじめに
 2 言語を通じた社会秩序の構図
 3 被害者化する社会と犠牲に供する人びと
 4 棄民政策としてのドラッグ政策
 5 おわりに──「家族」という犠牲者化困難な存在について

第2部 ドラッグ問題と私的領域

第5章 私的領域における合理的な管理/統制の不可能性と「ドラッグ・アディクト」の構成
 1 はじめに
 2 公的領域を侵食する〈身体=アディクト〉──西欧・米国社会の情勢
  2-1 ドラッグなき社会を志向する米国社会の試みと挫折
  2-2 人工的に「危険」をつくり出すドラッグ政策とリスク社会
 3 私的領域に埋めこまれた日本のドラッグ問題
  3-1 織りなされる〈身体=アディクト〉と関係する〈身体=家族〉のリアリティ
  3-2 Aさんの出会いと調査に至るまでの経緯
 4 親から犯罪者の「親」になること
 5 「他者」への信頼の欠如と内閉化へ向かう問題
 6 私的領域に対する遠隔統治──「危険」の先取り
 7 公的領域に生きる夫と私的領域に生きる妻との葛藤
 8 おわりに

第6章 わが子をドラッグ使用者として語り続けることへの逡巡
 1 はじめに
 2 日常生活に潜在する言語/言説の問題性
 3 公的な言葉への囚われとわが子への中傷/侮蔑
 4 収奪される言葉の回復と「病者」の言葉
 5 わが子を「病者」として語り続けることへの逡巡
 6 おわりに

第7章 「親」たちの〈抗い〉とその難しさについて
 1 はじめに
 2 「病者」の言葉への〈抗い〉
 3 わが子に対する「突き放し」と「親」による「立ち去り」
  3-1 わが子への「突き放し」
  3-2 「親」による「立ち去り」
 4 おわりに

終章
 「排除」や「包摂」から締め出される人びとの地帯へ

補遺:調査の概要
あとがき
文献