金時鐘にとって否定すべき「短歌的抒情」とは何であったのか!

リズムと抒情の詩学

金時鐘と「短歌的抒情の否定」

呉世宗【著】

[定価]   本体5,200円(税別) 

[ISBN]978-4-903690-59-9
[判型]A5判上製
[頁数]400頁

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一九七〇年代生まれの在日朝鮮人三世である著者の呉世宗氏は、民族と世代によって私とは二重に隔絶した読者として金時鐘の作品と出会い、長い時間をかけて向き合ってきた。本書を読んでまず打たれるのは、金時鐘のテクストを前にして著者が示す、徹底的に方法的であろうとする態度である。著者は直観的な印象批評を禁欲的なまでに排しつつ、金時鐘を<読む>ための特別な解読装置を、労を厭わず、周到に、緻密に組み立ててゆく。
(鵜飼哲「金時鐘を〈読む〉ということ―呉世宗『リズムと抒情の詩学』のために」より)

 金時鐘の長編詩『新潟』における「短歌的抒情の否定」の現れを明らかにするために、「リズム」と「抒情」を主要なキーワードに、一連の関連するテクストを検討。
 一見自然な感情の発露と見える「抒情」が、「リズム」概念の議論を通じて形作られたこと。リズムと抒情の近代化が、日清戦争という時代的背景のもと、ナショナリスティックに再編制されていったこと。リズムと抒情が、形式が内容に枠を与え、内容が形式を規定する、というように循環するものとして統合されたこと。以上三つのポイントから、近代的なリズムと抒情は、存在論的に共同体を立ち上げると共に、認識も規制したことを明かし、日本固有な結合の仕方、及びその存在と認識に及ぼす影響力こそが、金時鐘が批判的に捉える「短歌的抒情」であると結論づける、渾身の力作。

【目次】


序文 金時鐘を〈読む〉ということ──呉世宗『リズムと抒情の詩学』のために/鵜飼哲

序章 「短歌的抒情の否定」が目指すもの──「まみれることのない純粋な短歌」から、「垢じまない抒情」へ
 はじめに
 第一節 唱歌による実存と認識の変質
 第二節 日本近代詩歌からの影響──あるべき美の内面化
 第三節 本研究の視座
 第四節 本研究の構成

第一章 「短歌的抒情」の形成史
 第一節 『新体詩抄 初編』の役割──「音調」、「平常ノ語」、「本音」
 第二節 明治二〇年代における詩の形式と内容に関する議論
 第三節 形式と内容のナショナルな編成──日清戦争と詩
 第四節 リズムと抒情の循環──島村抱月の共同化するリズム
 第五節 時枝誠記のリズム理論──リズム抒情の認識への影響について

第二章 『乳色の雲』から『再訳朝鮮詩集』へ
 はじめに
 第一節 金素雲訳『乳色の雲』の受容の仕方──佐藤春夫を中心に
 第二節 「半創作」的翻訳とは何か──『朝鮮詩集』の基調
 第三節 「こころの翻訳」──「私」と対象の分節、自己触発
 第四節 金時鐘訳『再訳 朝鮮詩集』について
 第五節 翻訳が認識に与える影響について──植民地状況を中心に

第三章 小野十三郎と金時鐘
 はじめに
 第一節 「リズム」と「音楽」について
 第二節 「批評」──言葉、生活、素朴さ、科学
 第三節 「批評」と「リズム」の関係
 第四節 金時鐘における小野受容について──「自然」と距離をめぐって

第四章 初期詩篇論──『長篇詩集 新潟』に至るまで
 はじめに
 第一節 『地平線』について
 第二節 『日本風土記』について──距離の多様な表現

第五章 道と自己
 第一節 道と変身
 第二節 内部と外部からもたらされる自己喪失の危機
 第三節 「擬態」としての自己と朝鮮語の関係

第六章 意志について
 第一節 帰国事業について
 第二節 「あいつ」の意志について
 第三節 「ぼく」の意志について
 第四節 「変身」と「意志」に基づく言語実践──「日本語への報復」の現われ

第七章 自己変容を通じた世界の開示──浮上する歴史と他者の生
 第一節 世界の開示(一)──日本
 第二節 世界の開示(二)──故郷について
 第三節 世界の開示(三)──船から骨へ、済州島四・三事件を証言する詩

結論 リズムと抒情の詩学

参考文献
あとがき