「開かれた共同性」としての「民族」は可能なのか!

在日朝鮮人という民族経験

個人に立脚した共同性の再考へ

李 洪 章【著】

[定価]   本体3,200円(税別) 

[ISBN]978-4-86500-050-4
[判型]46判上製
[頁数]272頁

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現代日本社会に生きる在日朝鮮人の生活レベルでの民族経験を、徹底的に個人に根差して詳述すること。
そこを起点として「開かれた共同性」を実現するためのコミュニケーションのあり方、
その基軸に据えられるべき普遍的な原理が何かについて検討すること……。
個人への視座から「民族」を描きなおし、異化と同化、
抵抗と迎合といった単線的理解では捉えることができない人々の「生」を、
二項対立的なポリティクスに埋没させてしまうことなく描き出そうとする、若き社会学者による意欲作!

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〈訂正とお詫び〉

拙著第5章において、下記の事実とは認められない内容の記載をしたことにつき、
ご迷惑をおかけした関係各位にお詫びし、当該部分を取り消します。

■p227-8
「そのことを象徴するように、論争は最終的には俊彦によって打ち切られることになった。「内的説得力のある言葉」を含んだ直人の再反論に対して、俊彦からのさらなる返答は行われなかったのである。」

返答がなかったことを論争の打ち切りであると判断したことは、筆者が山根様への事実関係の確認を怠ったために生じた、誤った解釈でした。
このような解釈は、山根様に対する不当な評価に結びつきうるものであり、お詫びの申し上げようもありません。
山根様をはじめ関係者の皆様、ならびに読者の皆様にご迷惑をおかけしたことをあらためてお詫び申し上げます。

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〈正誤表〉
6ページ11行目
 [誤]打算的なものであると捉えらる  [正]打算的なものであると捉えられる

65ページ最後の行
 [誤]A・ゴッフマン  [正]E・ゴッフマン

74ページ11行目
 [誤]ポリティクスに他ならなず  [正]ポリティクスに他ならず

81ページ8行目
 [誤]不参加である条約によってその国籍  [正]不参加である条約によってその国籍

192ページ11行目
 [誤]下線部の語り  [正]Y-5冒頭の語り

213ページ最後の行
 [誤]関係を構築するための  [正]関係を構築するための

231ページ註11
 [誤]第4章の註5と同様の理由で仮名は用いない  [正]公刊物の著者であるため仮名は用いない

199-231ページ章柱
 [誤]章題と章柱の不一致  [正]p199の章題が正しい

 

【目次】


はじめに――生活者としての在日朝鮮人
凡例

序 論
 1 研究の動機と背景
  1-1 動機――在日朝鮮人の将来像をめぐって
  1-2 背景――「民族の脱構築論」を超えて
 2 本書の目的――在日朝鮮人個人の日常性への着目
  2-1 日常における「民族」
  2-2 「開かれた共同体」としての「民族」
 3 研究姿勢――「ディアスポラ研究」として

第1章 「個人」に立脚し、経験を記述する――〈私〉のポジショナリティと研究方法
 1 はじめに
 2 〈私〉のポジショナリティ
  2-1 〈私〉とは誰か
  2-2 「在日朝鮮人」カテゴリーからの脱却
  2-3 「個人」への立脚
  2-4 秩序を揺るがす「個人」
 3 「当事者研究」を超えて
 4 「実感」への依拠
 5 おわりに

第2章 「ナショナリティの強制力」をめぐる朝鮮籍者の経験と実践
 1 はじめに
 2 朝鮮籍とは何か――管理体制の変遷と現在
  2-1 朝鮮解放後の朝鮮籍者の法的地位
  2-2 新在留管理法制にみる朝鮮籍観の変遷
  〈コラム1:在日朝鮮人にとっての「国籍」とは――李恢成・金石範論争〉
 3 ナショナル・アイデンティティ論導入の有用性
 4 朝鮮籍在日朝鮮人青年のナショナル・アイデンティティ
  4-1 調査概要
  4-2 事例1:成基柱――「個人的抵抗」としての朝鮮籍維持
  4-3 事例2:李泰聖――「共和国」をめぐる葛藤
 5 考察――個人と集団の関係性
 6 おわりに

第3章 「国際結婚」家族による「民族」の実践――歴史性の「継承」と家族の安泰はいかにして「両立」するのか
 1 はじめに
 2 分析視角――歴史性の「継承」への着目
 3 歴史性の「継承」と家族の安泰の両立はいかにして可能となるか
  3-1 調査概要
  3-2 事例1:洪英甫・大森美沙――「民族」的な家族を目指して
  3-3 事例2:具守連・具優子――家庭内における民族の「共存」
 4 考察――民族とジェンダーの交差性
 5 おわりに

補 遺 「家父長制的民族主義」からの「逃避」とその超克――ある在日朝鮮人青年の「渡韓」を事例として
 1 はじめに
  〈コラム2:家族と民族〉
 2 差別の連鎖はなぜ起こるのか
 3 「逃避」と新たな生活圏の構築
  3-1 トランスジェンダーとしての新たな生活圏の構築
 4 考察――「家父長制的民族主義」を超えて
 5 おわりに

第4章 「民族」の語りをめぐる対話の膠着と展開――〈私〉による「ダブル」へのインタビューを事例として
 1 はじめに――違和感から出発する
 2 〈私〉を記述するという方法
 3 「ダブル」の語りの対話性――朴里奈の語りを事例として
  3-1 生育環境
  3-2 名前の変遷
  3-3 「在日朝鮮人」カテゴリーを揺るがす対話性
 4 「ダブル」カテゴリーをめぐって
  4-1 安田直人の語り――「人は一貫して加害者であり被害者でもある
  4-2 カテゴリー化による対話の膠着――「加害・被害」をめぐって
 5 おわりに

第5章 対話の生起条件――「名前」をめぐる論争を手がかりに
 1 はじめに
 2 対話の生起条件――バフチンの対話原理
  2-1 ポリフォニー論における対話的な他者との関係
  2-2 「権威的な言葉/内的説得力のある言葉」
  2-3 バフチン対話論の経験的研究への応用
  2-4 「物神化」
 3 「パラムの会」と「叙述的自己表現」
  3-1 「パラムの会」とは
  3-2 「叙述的自己表現」
 4 「流儀」と「政治」をめぐる対立と対話
  4-1 「本名」をめぐって
  4-2 「本名を呼び名乗る」運動と「名前の自己決定権」
 5 考察
  5-1 流儀か政治か――「叙述的自己表現」の解釈の違い
  5-2 対話的発話の発見
 6 おわりに

結 論
 1 議論の整理
 2 民族経験の個人化
 3 個人的民族経験
  3-1 被差別体験の個人化
  3-2 歴史性の個人化
 4 「継続」する家父長主義
 5 個人化社会における共同性

初出一覧
あとがき
文献