なぜ「物語(ナラティヴ)」なのか。
物語ることはわれわれをどこに連れて行くのか。

支援と物語(ナラティヴ)の社会学

非行からの離脱、精神疾患、小児科医、高次脳機能障害、自死遺族の体験の語りをめぐって

水津嘉克・伊藤智樹・佐藤 恵【編著】

[定価]   本体2,500円(税別) 

[ISBN]978-4-86500-113-6 C0036
[判型]A5判並製
[頁数]224頁

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個人と社会とのあいだに生じる「苦境への反応」を分析するとき、「物語(ナラティヴ)」は非常に有効な手段となる。物語という最低限の概念枠組みを導入することによって、われわれに様々なリアリティや新たな問い、 そしてそこにあるべき支援のかたちをもたらしてくれる。

【目次】


序章 支援の社会的文脈とナラティヴ・アプローチ  伊藤智樹
 1 本書の背景とねらい
 2 社会調査としてのナラティヴ・アプローチ(物語論的アプローチ)
   2-1 苦境への反応としての物語行為
   2-2 着眼点としての「個人」
   2-3 「物語」の構成要素
   2-4 ローカルな場面において語られるものとしての物語/長い人生誌としての物語
   2-5 物語の聴き手(聞き手)について
 3 支援と物語(ナラティヴ)の社会学を展開させる

第1章 「贖罪の脚本」は頑健な物語たりうるか──ある更生保護施設在所少年の語りからの考察  相良 翔
 1 贖罪の脚本の特徴
 2 調査概要と分析課題
 3 離脱に向けたターニングポイント
 4 人生の目標
 5 目標達成のために耐え忍ぶ
 6 贖罪の脚本の脆弱性
 7 結論

第2章 自己物語のなかの精神医学的カテゴリー──複数の「治療対象」の位置づけをめぐる問い  櫛原克哉
 1 精神医学的診断をめぐる諸問題
 2 調査の概要
 3 診断名とともに生きること
   3-1 学校生活への適応困難——生活史的背景
   3-2 うつ・統合失調症・広汎性発達障害——薬物療法の有効範囲
   3-3 再発防止のための服薬と認知療法
 4 診断の残余と自己物語——発達障害の位置づけをめぐる問い
 5 考察——自己物語の「相容れなさ」のなさで揺れ動くこと
 6 結語にかえて

第3章 「医師は「行為する英雄」からどう変わるのか?──二つの〈尽くす医療〉から考える  鷹田佳典
 1 「回復の物語」と近代医療の英雄性
 2 〈やり尽くす医療〉への違和感:B医師の事例
   2-1 初めての患者の死
   2-2 ある患児の死から
   2-3 できることが限られたなかで「精一杯尽くす」
 3 〈やり尽くす医療〉の頑健性/〈精一杯尽くす医療〉の困難性
   3-1 「死の不可避性」への対応
   3-2 〈やり尽くす医療〉と「回復の物語」へのとらわれ
   3-3 終末期の現場における〈やり尽くす医療〉の頑健性
 4 医師の「英雄性」とその困難
 5 おわりに

第4章 高次脳機能障害の生き難さを「聴く」ことの多面性──ピア・サポートの事例から考える  伊藤智樹
 1 高次脳機能障害とは
 2 本章での調査対象について:富山県高次脳機能障害支援センターとピア・サポート事業
 3 高次脳機能障害とナラティヴ・アプローチ
 4 家族の語りと物語の混沌
   4-1 息子に対する葛藤:Pさんの例
   4-2 ようやく支援につながった:Qさんの例
 5 当座の課題を明確化する:ただ「傾聴」するだけでよいのか?
 6 共感的な聴き方として何が行われていたか:苦しみを認めること、ユーモア
   6-1 来談者の苦しみを認める:一人称の語り、経験の相対的な一般化
   6-2 物語の展開を支える二つの仕方の例:ユーモア、「つながる」ことの強調
 7 ふたりのその後について
 8 結論と含意(インプリケーション)、および留意すべき点について

第5章 聴き手の不在という経験と“語り”の再開をめぐって──聴き手となることの倫理性とその可能性  水津嘉克
 1 はじめに
 2 語りの困難性を伴う死別とは
 3 自死遺族とはどのような存在なのか
   3-1 数値からのアプローチ・「自死者」の数
   3-2 遺族の問題
   3-3 現実との乖離
 4 「語り得ない“語り”」≒聴き手のいない「語り」
   4-1 「スティグマの経験」「遺族への(世間からの)バッシング」
   4-2 「自死者へのネガティブな気持ち・怒り」
   4-3 親密な人びととの問題
   4-4 「自責の念」「後悔」
 5 「沈黙」がもたらすもの:「語り得ない」ことの内実とは
   5-1 「語り」の難破・経験の「中断」:自己物語の非力化(disablement)
   5-2 「語り」を再開することの困難性
 6 おわりに

あとがき