この社会は、人の能力の差異に規定されて、受け取りと価値が決まる、そしてそれが「正しい」とされている社会である。
そのことについて考えようということだ、もっと簡単に言えば、文句を言おうということだ
私的所有論[第2版]
この本はたしかに長くはある。ただ、基本的な「動機」「主題」はいたって単純なものだ。
この社会は、人の能力の差異に規定されて、受け取りと価値が決まる、そしてそれが「正しい」とされている社会である。そのことについて考えようということだ、もっと簡単に言えば、文句を言おうということだ。そして、人々は実は別の価値を有してもいるとも言ってしまい、そして別の社会を示そうということだ。(「それから——第2版に」より)。
立岩社会学の主著、文庫版となって待望の第2版刊行! 解説=稲葉振一郎。
【目次】
第1章 私的所有という主題
1 私的所有という主題
[1]能力 [2]所有=処分に対する抵抗 [3]自己決定の外側、そして線引き問題
2 主題が置かれている環境
[1]技術・生命倫理学 [2]社会学 [3]問いについての歴史
第2章 私的所有の無根拠と根拠
1 所有という問題
[1]自己決定の手前にある問題 [2]私的所有という規則
2 自己制御→自己所有の論理
[1]自己制御→自己所有の論理 [2]批判 [3]「自由」は何も言わない
3 効果による正当化と正当化の不可能性
[1]利益?(1) [2]利益?(2) [3]「共有地の悲劇」?
4 正当化の不可能性
[1]サバイバル・ロッタリー [2]正当化の不可能性
第3章 批判はどこまで行けているか
1 自己決定の条件
[1]批判を検討する [2]決定のための情報 [3]自己決定ではないとする批判
[4]他者(達)の侵害/パターナリズム
2 公平という視点
[1]何が問題にされているか [2]富者しか利用できない? [3]貧しい者が搾取される?
3 交換と贈与について
[1]交換と贈与について [2]本源性の破壊?
第4章 他者
1 他者という存在
[1]制御しないという思想 [2]私でないのは私達ではない [3]他者である私
[4]「自然」 [5]他者という存在
2 境界
[1]境界という問題 [2]境界線は引かれる [3]β?その人のものでないもの
[4]α?その人のものであるもの [5]α/β
3 自己決定
[1]自己決定は肯定される [2]自己決定の/を巡る困難 [3]自己決定は全てを免罪しない
[4]決定しない存在/決定できない事態 [5]自己決定のための私的所有の否定
[6]条件を問題にするということ
4 技術について
[1]技術 [2]「私」 [3]私が私を作為することに対する他者の感覚
[4]離脱? [5]他者による規定
5 生殖技術について
[1]抵抗の所在 [2]単なる快と不快という代償 [3]偶然生まれる権利
第5章 線引き問題という問題
1 自己決定能力は他者であることの条件ではない
2 線はないが線は引かれる
[1]線引きの不可能 [2]同じであること/近いこと
3 人間/非人間という境界
[1]ヒトという種、あるいは、人であるための資格
[2]人のもとに生まれ育つ人であることを受け止める人 [3]資格論の限界
[4]その人のもとにある世界
4 はじまりという境界
[1]はじまりという問題 [2]生産物に対する権利 [3]他者が現われるという経験
[4]所有と資格
第6章 個体への政治
1 非関与・均一の関与
[1]自由な空間 [2]均質な関与・権力の透明な行き渡り [3]自己を制御する自己の想定
[4]関数の不在→個体関与の戦略
2 主体化
[1]主体化 [2]二重予定説 [3]公教育 [4]介入・成長・消失
3 性能への介入
[1]環境・遺伝への注目と介入 [2]アメリカ合衆国とドイツにおける優生学
[3]優生学の「消失」
4 戦略の複綜
[1]自己原因/被規定性 [2]放任/介入 [3]介入/非関与 [4]個体への堆積
第7章 代わりの道と行き止まり
1 別の因果
[1]社会性の主張 [2]真性の能力主義にどう対するのか
[3]間違っていない生得説に対する無効 [4]因果を辿ることの限界
2 不可知による連帯
[1]保険の原理による修正 [2]可知になる時
3 抵抗としての自由
[1]抵抗としての自由 [2]自由であるための資格
4 より「根底的」な批判
[1]能力主義者である私の否定 [2]関係の自然史 [3]政治学への転換 [4]閉塞?
5 行き止まりを通り抜ける
[1]禁じ手を使う [2]人のいない市場 [3]円環から抜ける
第8章 能力主義を否定する能力主義の肯定
1 問い
[1]いくつかの問い [2]答が答えていないことについて
2 I<私が作ったものが私である>の否定
[1]手段性・個別性に関わる批判 [2]手段性の不可避性 [3]個別性の不可避性 [4]Iの否定
3 II<能力に応じた配分>の否定+肯定
[1]正しさはないが起こってしまう [2]廃絶の試みについて
[3]市場+再分配という退屈な仕掛けの、しかし退屈であるがゆえの採用
4 III<能力しか評価してはならない>の肯定
[1]IIIは所有・契約の原理からは導かれない [2]I・IIはIIIを正当化しない
[3]IIIの擁護
5 結論と応用問題への回答と解けない問題
[1]結論および再確認 [2]他者があることの経験の場——例えば学校について
[3]遺伝子検査と雇用、保険 [4]他者が他者であるがゆえの差別
第9章 正しい優生学とつきあう
1 出生前診断
[1]出生前診断 [2]障害者の社会運動の批判 [3]女性の運動の批判・応答
[4]残されている問題
2 女性の「自己決定」という設定の錯誤
[1]決定の対象は「自己」ではない [2]負担者であるがゆえの権利という論理
3 「当事者」の不在
[1]「本人の不幸」という主張は成り立ちえない [2]抹殺とする批判を採らない
[3]範疇に対する差別?
4 なぜ私達は行うのか
[1]不快/不都合 [2]死/苦痛 [3]いずれも勝手な行いであることの中の差異
[4]「正しい」優生学としての出生前診断・選択的中絶
5 何がなされうるのだろうか
[1]知らされてよいのか [2]積極的な権利としての選ばない権利
6 積極的優生について
[1]積極的優生 [2]積極的優生は不愉快だから禁止される
7 引き受けないこと
[1]否定するのでなく、場から降りること [2]小さな場に現われる [3]私から遠ざけること
ごく単純な基本・確かに不確かな境界──第2版補章・1
1 単純な批判と基本的な位置
[1]いたって単純なことが書いてある [2]根拠?
2 人に纏わる境界
[1]位置 [2]殺生について [3]人間の特別扱いについて [4]始まりについて
3 人に対する人
[1](非)介入──とくに(予め)よくすることについて
[2]承認の重みを軽くすること
4 人に纏わるもの・世界
[1]譲渡を求める/求めないもの [2]環界
5 分けられるものの分け方
[1]ありうる(まともな)批判について [2]三つの場面からの三つの層に分けられる分配
[3]強制・権力について
いきさつ・それから──第2版補章・2
1 なりゆき
[1]いきさつ [2]私に対置されるのは私たちではないと思ったこと
[3]第2版までの些事
2 その後
[1]その後 [2]社会内の境界 [3]「生命」のこと [4]現在の歴史
おわりに
解説 稲葉振一郎
文献リスト
索引