彼/彼女たちは「名づけられない」病いにどのように対応し、
どのように自身の生を築いているのか

「名づけられない」病いの軌跡

希少未診断の社会学

上野 彩【著】

[定価]   本体3,500円(税別) 

[ISBN]978-4-86500-167-9
[判型]A5判並製
[頁数]216頁

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公的支援・保障の埒外に置かれる、希少未診断をはじめとする「名づけられない」病者・患者たち。
多くの「生きづらさ」を抱える人々にとっての〈希望〉となることを信じ、当事者の語りから、その「生」のプロセスを記述する労作。

【訂正のご報告】
本書において次の誤りがございました。
謹んでお詫び申し上げ、訂正いたします。
(生活書院編集部)

188ページ4行目
(誤)関東学院大学・三浦耕吉郎先生→(正)関西学院大学・三浦耕吉郎先生

【目次】


序章
 1 「名づけられない」疾患
 2 本書の目的と各章の概説
 3 調査概要と分析の視点――病みの軌跡理論とライフストーリー
 4 「名づけられない」病いと希少未診断――類似疾患との差異と希望

第1章 診断に依拠できない患者の存在
 1 患いに関する三つの視点――Disease,Illness,Sickness
 2 新しい疾患形態――IRUDプロジェクトの動向を踏まえて
 3 類似疾患患者の経験と診断――希少疾患とMUS
 4 希少未診断という定義

第2章 疾患に規定されている医療社会学
 1 病人役割の限界と正統性の議論
 2 病みの軌跡理論とバイオグラフィカルワーク
 3 「診断の社会学」とその限界
 4 各理論枠組みによって示される診断の重要性と本書の目的

第3章 疾患による病気の規定――難病政策と難病法を事例に
 1 本章の位置づけ
 2 難病政策の変遷
  2-1 難病の患者に対する医療等に関する法律の成立過程
  2-2 難病法について
 3 調査方法
 4 難病研究・医療ワーキンググループ、厚生科学審議会疾病対策部会難病対策委員会、
   第一八六回衆議院/厚生労働委員会の議事録より
  4-1 「本当に苦しんでいる患者さん」の存在
  4-2 「病名」による「制度の谷間」
  4-3 「難病医療支援ネットワーク」の現状
 5 厚生労働省側の「反応」に見せかけた拒絶
 6 難病政策・難病法における疾患の役割と「病気(ailment)」の三連構造

第4章 苦しみを表現する「言葉」をもてない者たち
 1 社会的、学術的関心の枯渇
 2 調査概要
 3 分析方法
 4 「がん」との比較
  4-1 がんに「あこがれる」Kさん
  4-2 がんを「有限でいいな」と語るTさんと自身の苦しみを「霧」と表現するAさん
 5 メタファーとしての「がん」が示すもの
 6 何も突きつけられない苦しみ――「霧」
 7 事例検討に向けて

第5章 働かなければならない患者と病人役割――看護師であり続けたOさんの語りを事例に
 1 患者の就労状況
 2 就労しなければならない患者――職場における病人役割
 3 調査対象者 Oさんについて
 4 身体の状態を表す「言葉」をもたないことによる辞職と転職
 5 「知覚」をもたないがゆえの確定診断の遅れ
 6 「名づけられない」ことによって築けたキャリアとその限界
 7 「名づけられない」ことによって脆弱化する病人役割

第6章 「名づけられない」患者の病人役割の取得過程と管理
     ――医療資源の乏しい環境への移住を選択したAさんを事例に
 1 語りによるバイオグラフィーの再構成と診断
 2 病人役割の取得過程について
 3 フィールドについて
  3-1 沖縄・八重山諸島文化――見えないものに対する姿勢
  3-2 地域Ⅰ/地域Ⅱの医療環境について
 4 調査対象者Aさんについて――移住経験の整理
  4-1 移住Ⅰ――沖縄本島から八重山諸島へ
  4-2 移住Ⅱ・移住Ⅲ――症状による往復生活と八重山諸島への帰還と結婚
  4-3 離婚と新しい職による往復生活
  4-4 再婚と最後の移住V
 5 移住による「母親的役割」からの解放と病人役割の管理
  5-1 Aさんに植え付けられた役割
  5-2 娘の語りかけによる認知的体験の知覚
  5-3 医師の不統一な療養指示と移住――病人役割の取得と管理
 6 移住の選択における地域文化の役割――「魂の成長」のための「ギフト」
 7 病みの軌跡の不在による〝希望〟

第7章 病みの軌跡の援用可能性
     ――希少がん患者であり、希少未診断患者でもあるSさんの語りを事例に
 1 同病者との交流と限界――病みの軌跡の援用
 2 病いの語り研究の蓄積と批判
  2-1 バイオグラフィーの断絶と病いの語りの三類型
  2-2 「探求の語り」への批判
 3 調査対象者 Sさんについて
 4 希少未診断疾患への意味づけ――CML経験による「信念」の構築
  4-1 相対化された希少未診断疾患の経験
  4-2 CMLによるバイオグラフィーの断絶とCMLへの意味づけ
 5 CML経験で構築された医療への「信頼」――伴走することで達成される生の安定化
 6 「共有感覚」の欠如――「個」として背負わなければならない苦しみ
 7 患いではなく、生きることへの意味づけの転換
  7-1 希少性疾患の経験による病みの軌跡の援用
  7-2 同病者との経験の共有による「信念」の構築過程と生への意味づけ

終章 軌跡をもたない者の苦しみ――多様化を強いられる希少未診断患者たち
 1 境界がない「霧」という苦しみ――生の連続性
 2 往来によって築かれる未知への対処――適応のパラドックス
 3 MUS患者と希少未診断患者の差異――多様性の構造

初出一覧
あとがき
巻末資料
参考文献 索引