子どもの命を救うのか、否か。私たちに迫る二者択一の主張には問題がないのだろうか。
虐待リスク
構築される子育て標準家族

子どもの命を救うのか、否か。私たちに迫る二者択一の主張には問題がないのだろうか。
差別や偏見に繋がりかねないリスク要因を数え上げ、子どもを家庭から引き離す政策を維持するのか。社会保障や福祉サービスを整備し、家族に貼り付けられた「虐待リスク」を社会の責任で確実に減らしていくのか。私たちはどちらのタイプの社会を選ぶべきか。
【目次】
はじめに
第1章 児童虐待の発見方法の変化――目視からレントゲン、そしてリスクへ
1 目視による発見
2 レントゲンによる発見
3 リスクによる発見
第2章 心理と保険数理のハイブリッド統治
1 心理化
2 リスクアセスメント化
3 心理と保険数理のハイブリッド統治
第3章 「子育て標準家族」はどこから来たのか
1 リスク配分のポリティクス
2 虐待リスクについての議論
(1)作成段階 (2)使用段階
3 「子育て標準家族」の構築
第4章 ネオリベラルな福祉
1 児童福祉から児童保護へ――ニーズからリスクへの読み替え
2 児童虐待事例再訪
3 ネオリベラルな福祉――新しい責任主体
第5章 親による親子分離の語り
1 児童虐待問題の位置づけ――国際比較研究による3つの分類
(1)児童保護システム (2)コミュニティ・ケアリングシステム (3)家族サービスシステム
2 親子分離を経験した親へのインタビュー
(1)Aさん (2)Bさん (3)Cさん
3 日本の「児童虐待防止システム」の問題点
4 国際比較研究からの示唆
第6章 一時保護を経験した子どもの語り
1 一時保護の経験――Aさんの語り
2 児童虐待防止システムの「正常な」作動
3 インターセクショナルな差別
4 「例外状態」としての児童虐待
(1)アガンベンの「例外状態」 (2)望ましいソーシャルワークの「例外」
5 不可能な任務――調査と援助の二重の役割
第7章 多文化と児童虐待
1 虐待という視点
2 外国籍の親からみた日本の児童虐待防止対策
(1)韓国人家族 (2)ベトナム人/カナダ人家族
3 何がなされるべきか
第8章 「不十分な親」の構築――ヤングケアラー概念の批判的検討
1 ヤングケアラー概念の台頭
2 ヤングケアラー概念のどこが問題なのか――英国の議論を参照して
(1)財源配分と福祉カテゴリー (2)「不十分な親」の名指し
3 依存をめぐる対立構造
第9章 ソーシャルハーム・アプローチの挑戦
1 虐待の有責性をめぐる議論
(1)親というアイデンティティの否定 (2)環境要因の自己責任化メカニズム
2 ソーシャルハーム・アプローチ
3 経済と承認の社会的再配分
4 交渉の様式
5 揺さぶられっ子症候群への異議申し立て活動
あとがき
関連する初出原稿
文献
索引