子どもの命を救うのか、否か。私たちに迫る二者択一の主張には問題がないのだろうか。

虐待リスク

構築される子育て標準家族

上野加代子【著】

[定価]   本体2,300円(税別) 

[ISBN]978-4-86500-135-8 0036
[判型]四六判並製
[頁数]264頁

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子どもの命を救うのか、否か。私たちに迫る二者択一の主張には問題がないのだろうか。
差別や偏見に繋がりかねないリスク要因を数え上げ、子どもを家庭から引き離す政策を維持するのか。社会保障や福祉サービスを整備し、家族に貼り付けられた「虐待リスク」を社会の責任で確実に減らしていくのか。私たちはどちらのタイプの社会を選ぶべきか。

【目次】


はじめに 

第1章 児童虐待の発見方法の変化――目視からレントゲン、そしてリスクへ
 1 目視による発見
 2 レントゲンによる発見
 3 リスクによる発見

第2章 心理と保険数理のハイブリッド統治
 1 心理化
 2 リスクアセスメント化
 3 心理と保険数理のハイブリッド統治

第3章 「子育て標準家族」はどこから来たのか
 1 リスク配分のポリティクス
 2 虐待リスクについての議論
  (1)作成段階 (2)使用段階
 3 「子育て標準家族」の構築

第4章 ネオリベラルな福祉
 1 児童福祉から児童保護へ――ニーズからリスクへの読み替え
 2 児童虐待事例再訪
 3 ネオリベラルな福祉――新しい責任主体

第5章 親による親子分離の語り
 1 児童虐待問題の位置づけ――国際比較研究による3つの分類
  (1)児童保護システム (2)コミュニティ・ケアリングシステム (3)家族サービスシステム
 2 親子分離を経験した親へのインタビュー
  (1)Aさん (2)Bさん (3)Cさん
 3 日本の「児童虐待防止システム」の問題点
 4 国際比較研究からの示唆

第6章 一時保護を経験した子どもの語り
 1 一時保護の経験――Aさんの語り
 2 児童虐待防止システムの「正常な」作動
 3 インターセクショナルな差別
 4 「例外状態」としての児童虐待
 (1)アガンベンの「例外状態」 (2)望ましいソーシャルワークの「例外」
 5 不可能な任務――調査と援助の二重の役割

第7章 多文化と児童虐待
 1 虐待という視点
 2 外国籍の親からみた日本の児童虐待防止対策
 (1)韓国人家族 (2)ベトナム人/カナダ人家族
 3 何がなされるべきか

第8章 「不十分な親」の構築――ヤングケアラー概念の批判的検討
 1 ヤングケアラー概念の台頭
 2 ヤングケアラー概念のどこが問題なのか――英国の議論を参照して
 (1)財源配分と福祉カテゴリー (2)「不十分な親」の名指し
 3 依存をめぐる対立構造

第9章 ソーシャルハーム・アプローチの挑戦
 1 虐待の有責性をめぐる議論
  (1)親というアイデンティティの否定 (2)環境要因の自己責任化メカニズム
 2 ソーシャルハーム・アプローチ
 3 経済と承認の社会的再配分
 4 交渉の様式
 5 揺さぶられっ子症候群への異議申し立て活動

あとがき
関連する初出原稿
文献
索引