そもそも他者の介入を完全に排除した自己決定などあるのだろうか?

しゃべれない生き方とは何か

天畠大輔【著】

[定価]   本体3,000円(税別) 

[ISBN]978-4-86500-136-5 C0036
[判型]A5判並製
[頁数]392頁

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「発話困難な重度身体障がい者」の自己決定概念とはいかなるものか? 
世界で一番?かもしれない身体障がいの重い研究者、天畠大輔が、自らを事例としてそのプロセスその難しさを詳細に描き出し、自己決定という概念そのものに潜む矛盾を問う渾身の書!

【目次】


はじめに

第1部 本研究の性格と当事者研究

第1章 本研究の背景と目的
 1 本研究の背景
   本研究の背景/テーマに至る経緯/先行研究の整理と批判的検討/本研究の問い
 2 本研究の目的
   本研究の目的/本研究の意義/本研究の構成

第2章 概念的枠組みの構築
 1 「情報生産者」とは
   「生産する主体」の社会的背景/天畠大輔における「doing」と「情報生産者」/
   「情報生産者」を支える「通訳者」
 2 「他者の介入を受けた自己決定」とは
   自己決定と他者性/他者介入が顕著に現れる「発話困難な重度身体障がい者」の自己決定

第3章 本研究の方法
 1 研究方法
   当事者研究の潮流――治療(カウンセリング)・調査としての当事者研究/当事者とは何か/
   本研究における当事者研究
 2 研究対象
   研究対象「天畠大輔」とは/天畠大輔の用いる「あ、か、さ、た、な話法」とは/天畠大輔の「通訳者」とは
 3 調査概要
   研究で使用する5つの調査/研究全体にわたる記述方法/
   調査における人権の保護および法令などの遵守への対応

第2部 「発話困難な重度身体障がい者」のコミュニケーション
     ――青い芝の会の介助思想と天畠大輔における「通訳者」の特異性

第4章 青い芝の会における「発話困難な重度身体障がい者」
 1 概要―——青い芝の会の文献調査と澤田隆司の介助者へのインタビュー
   調査概要と調査対象/調査手順
 2 青い芝の会の介助思想
   横田弘の行動綱領における愛と正義の否定/健全者文明を否定することの意味/
   横塚晃一の「健全者集団に対する見解」における健全者手足論
 3 澤田隆司と青い芝の会
   澤田隆司の略歴/澤田隆司の介助思想―——横塚晃一の影響を中心に
 4 澤田隆司の介助思想──健全者にくわれない生き方
   先読みを否定する澤田隆司/技としての介護付け/澤田隆司と介助者の関係性の変容/
   運動面に力を入れすぎたつけ/澤田隆司の介助思想のまとめ
 5 まとめ

第5章 天畠大輔とは何者か―——コミュニケーションの確立と拡張の経緯
 1 概要——―天畠大輔の生活史調査
   調査概要と調査対象/調査手順
 2 コミュニケーションの喪失と再構築
   天畠家におけるコミュニケーションの重要性/
   コミュニケーションの喪失と「あ、か、さ、た、な話法」の誕生/「あ、か、さ、た、な話法」誕生の条件
 3 コミュニケーションの拡張の経緯と「情報生産者」への道のり
   制度利用の変遷と介助者の広がり/コミュニケーション支援機器利用の変遷/
   自分以外の障がい者のサポートへ
 4 コミュニケーションの拡張に向けてのエコマップ
 5 まとめ

第6章 天畠大輔における「通訳者」の変遷を通してみる通訳介助体制のあり方と課題
 1 概要――天畠大輔の生活史調査と「通訳者」の業務分担調査
   調査概要と調査対象/調査手順
 2 結果――通訳介助体制の変遷と「通訳者」の業務量
   通訳介助体制の構築――重度訪問介護事業所設立に向けて/事業所設立と通訳介助体制の課題/
   2011年~2012年の「通訳者」の業務量
 3 考察――「通訳のルーティン化の困難さ」と「依存」
   通訳のルーティン化の困難さ/事業所設立の必要性と役割/依存先の分散と偏りの顕在化/
   「依存」を作り出す諸条件
 4 まとめ

第7章 天畠大輔における「通訳者」の「専門性」について
 1 概要――天畠大輔の「通訳者」にむけた実験的会話調査およびインタビュー
   調査概要/調査対象/調査手順
 2 結果――「あ、か、さ、た、な話法」通訳の実態
   通訳に要する時間測定/通訳における「先読み」の実態/
   「通訳者」へのインタビュー結果――質問内容と回答抜粋
 3 考察――「通訳者」の「専門性」とは
   サインを正確に読みとる/適切な語句あるいは文節に区切る/意図を予測変換する先読み/
   天畠大輔と通訳者間の「共有知識」/「通訳者」の専門性――「クライアント特化能力」と「個人的能力」
 4 まとめ

第3部 「発話困難な重度身体障がい者」のコミュニケーションのジレンマ

第8章 天畠大輔の「他者の介入を受けた自己決定」の実態
 1 概要――「通訳者」に向けた実験的メール調査およびインタビュー
   調査概要と調査対象/調査手順
 2 結果――メール作成場面における通訳現場の実態
   調査結果/通訳者αについて/通訳者βについて/通訳者γについて/通訳者δについて
 3 考察――「先読み」のあり方と「他者の介入を受けた自己決定」の実態
   協働作業による読みとり行為/「誰と行うか(With who)」の重要性/
   戦略的に選びとられた「弱い主体」
 4 まとめ

第9章 発話困難な重度身体障がいをもつ大学院生のリアリティ
 1 背景と概要――「情報生産者」の実態
   〝水増し〟された能力/佐村河内オーサーシップ問題について/「筆者であること」を問題点として/
   調査概要――筆者と「通訳者」に向けた論文執筆における通訳現場の調査
 2 結果――論文執筆のプロセス
   論文執筆の会社的発想――ホーキング博士の事例/
   文章化前――「共有知識を構築する場」としての論文ミーティング/
   文章化プロセス――「それ、書いておいて」という執筆技法/
   文章化後推敲――「もの言う介助者」としての「通訳者」
 3 考察――「情報生産者」における「通訳者」への「依存」とそこに生じるジレンマ
   「情報生産者」における「依存」の実態/
   「それ、書いておいて」の論文執筆技法から発生する3つのジレンマ
 4 まとめ

終章 「多己決定する自己決定」が認められる社会へ
 1 前章までのまとめ――天畠大輔の個別具体的事例からわかったこと
 2 理論的考察
   3つのジレンマが帰属する問題/寄与分の問題/
   帰属問題で増幅される「〝水増し〟された能力」のジレンマ
 3 本研究の結論
   天畠大輔の事例からみえた実態/抽象と捨象の問題
 4 提言――「多己決定としての自己決定」が認められる社会へ
 5 当事者研究の新たな可能性――合理的配慮を導き出す
 6 本研究の限界と今後の研究課題

解題 誰の?はどんな時に要り用なのか(不要なのか)  立岩真也

謝辞
おわりに
文献