それは、いったい、どこからやってきたのか?
障害と所得保障
基準の管理から分配の議論へ
所得再分配の基準はどのように創られたのか。障害者を対象とした所得保障制度の長期的追跡で明らかになったのは、恩給、官業共済、工場法、労災保険、健康保険、厚生年金保険、国民年金、身体障害者福祉法等、一見ばらばらな制度の複雑な絡まりであった。時間の流れの川上で何が起こり、いかにしてこの状況が生み出されたのか、絡まりをゆっくり解しながらその本質に迫る。その作業は、近代化以降の日本において、労働者がどのように眼差され、どのように扱われる存在であったのかの問い直しでもある。
【目次】
はしがき
序章
1 はじめに
2 本書の目的
3 障害認定の五つの前提
4 所得再分配の四つの基準
5 本書の構成
6 凡例等
第1章 分析の視点
1 所得保障制度の制度配置
2 障害年金制度に関する先行研究
3 分析概念
4 本書の到達点
第2章 恩給制度――機能障害基準の確立
1 軍人恩給制度の確立
2 公務員の種別の越境
3 その後の等級の変遷
4 稼得能力の影響
5 小括
第3章 官業共済制度――稼得能力基準の原点
1 官業労働者に対する労災補償
2 官業共済組合
3 小括
第4章 工場法――稼得能力基準と機能障害基準の混在
1 工場法
2 「工場監督年報」における紛議
3 工場法等通達
4 労働者災害扶助法
5 工場法等の統一
6 精神・神経障害、内部障害と打切扶助料
7 小括
第5章 社会保険の創設――建て前としての稼得能力基準
1 健康保険法
2 船員保険法
3 労働者年金保険法(厚生年金保険法)
4 小括
第6章 労働基準法と厚生年金保険法――労働能力基準の誕生
1 労働基準法、労働者災害補償保険法の制定
2 社会保険における業務上の事由への対応
3 労災補償制度と厚生年金保険との等級の対応関係
4 障害補償制度から厚生年金保険への継続
5 等級表の転用
6 目的の変更
7 小括
第7章 労働能力を評価する――障害認定基準の整備
1 労働能力の評価方法への希求
2 労働能力の評価方法の標準化
3 一九五四(昭和二九)年改正
4 労働能力の量的評価
5 労働能力を評価する
6 小括
第8章 国民年金と日常生活能力
1 障害年金制度案の概要
2 労働能力基準の経路依存
3 身体障害者福祉制度との調整
4 身体障害者福祉制度の等級を用いた対象規定の経路依存
5 第一の経路と第二の経路の合流
6 日常生活能力基準の誕生
7 小括
終章
1 プロセスを構成するメカニズム
2 何がそれを生み出したのか
3 本書の限界
あとがき/巻末資料/文献一覧