ボディふぃ~るだー! でぐちの
〈身遣い〉のフィールドワーク、はじめました〈14〉

出口泰靖    


 

第14回 

「体幹」もいいけど?「末端」もね!?の巻(その1)

 

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(1)わたしの小指が大ピンチ!!

 
 わたしの小指が、大ピンチになった。
 今回は、わたしの小指が大ピンチになった話からはじめて、「小指」や「指先」という、からだの「末端」ともいえるところが、実はとても大切なところでもあるのでは?という話をまずはしてみたいと思う。

 

(2)バランスボールでバランスをくずす!?

 
 いつもわたしが職場のデスクでイス代わりに使っているバランスボールがある。ある日、そのバランスボールに腰をおろそうとしたところ、ボールとおしりをのせる角度がズレてしまったせいか、バランスをくずしてしまった(バランスボールなのにもかかわらず)。
 おおっと、このままでは、からだごと転がってしまいそうだ。あせったわたしは、なんとか体勢を維持しようと、むりやり右手でバランスボールをおさえつけようとした。
 だが、右手の手指に力を入れすぎてしまったのだろうか。パキキィィィィイン。と、かなり大きな音がした。
 ああっっと、手か、腕か、どこか、捻挫か骨折してしもうたんかー。と思い、左手で右手をまさぐり、ささえ持ってみる。すると、右手の小指、その第一関節から、な、なんとまあ、元気がなくなってしおれそうな花のように、クニャらららら~、と、曲がりはじめてきたではあるまいか。
 こりゃ、骨折したんかのー。めんどーなことになったわい、と思った。だが、しばらくたっても骨折で生じてくるかと思われる、大きな痛みや腫れがいっこうに出てこない。ただ、小指の指先まで力がまったく入らず、指を伸ばしているつもりでも、第一関節から、クニャららら~、と元気なく頭を垂れている。
 こういう場合は、添え木をしておくとよいものか、と思い、添え木になるようなものが職場の部屋にあるかどうか、物色してみた。すると、ちょうど割り箸があった。というか、割り箸ぐらいしか添え木代わりになりそうなものがなかった。
 そこで、はさみで割り箸を小指のサイズぐらいに切り取ってみた。そして、曲がったまんまの右手の小指を左手で押さえながら伸ばし、添え木を小指に当て、その上からセロハンテープをグルグルっと巻いて、添え木代わりにしてみた。

 

(3)「ゴールドフィンガー」ならぬ、「マレットフィンガー」?!

 
 その後、日をあらためて取り急ぎ、整形外科に行って、わたしの小指を診察してもらった。まずはレントゲンを撮ってみましょう、ということでレントゲン写真をとってもらってから、診察することとなった。
 整形外科の医者の話によると、どうやら、わたしの小指のケガは、「伸筋腱損傷」というケガであるらしかった。しかも、正式な疾患名として「右小指腱性マレットフィンガー」という名称をいただいてしまった。
 マ、マレットフィンガー?
 聞いたこともない名前であった。ゴールドフィンガーなら聞いたことはあるが。
 自分でいろいろ調べてみると、「マレットフィンガー」というのは、運動中に突き指をしてしまったり、日常生活の中で何かに指を引っ掛けたりしたことなどが原因で、指の第一関節が不自然に曲がり、曲がったまま動かせなくなってしまう状態のことだという。指の第一関節が「木槌(マレット)」のように曲がった状態になるので、「マレット変形」とも呼ばれるのだそうだ(「日本整形外科学会」ホームページ、日本手外科学会「手外科シリーズ 6 マレット変形」より)。
 また、「マレットフィンガー」には二つのタイプがあるという。一つは、「指を伸ばすスジ(腱)である伸筋腱が切れたために生じるもの」で、「腱性マレット指(腱性マレットフィンガー)」という。もう一つのタイプというのは、「第一関節の関節内が骨折して、伸筋腱がついている骨が関節内骨折を起こしてずれた状態になったもの」で、「骨性マレット指(骨性マレットフィンガー)」と呼ぶのだそうだ。
 わたしの場合、前者の「指を伸ばす伸筋腱が切れたために生じるもの」である「腱性マレットフィンガー」であった。
 その症状としては、第一関節が曲がったままで痛みや腫れがあり、自動伸展は不能で自分で伸ばそうと思っても伸びないが、他動伸展は可能で手伝って伸ばすと伸びるという(「日本整形外科学会」ホームページより)。わたしの場合、痛みも腫れもそれほどなかったが、「自動進展」という名の通り、自分で自分の小指を伸ばそうとしてもできなかった。だが、これまた「他動伸展」の名の通り、別な手で押さえて伸ばすことはできた。
 こうして、わたしの右手の小指は、「ゴールドフィンガー」ならぬ、「マレットフィンガー」として、治療をすることになったのである。

 

(4)「マレットフィンガー」治療、はじまる

 
 小指の第一関節が、クニャららら~、と曲がったまま、自分の力で伸びきれない「マレットフィンガー」。まずはクニャららら~、と曲がった状態から、まっすぐに伸ばした状態にするためのことが必要だという。そのためには、小指を曲がらないように固定するための装具をつけ、何週間か固定する、という「保存療法」なる治療をすることになった。
 この、装具をつけ続けて曲がらないように固定する治療で、固定が上手くできずにまたしてもクニャららら、と曲がってしまうようだと、手術をしなければならない、とも医者に言われた。
 しゅ、しゅじゅつ~!!。わたしは心の中で叫んで、ゾゾっ、と身震いしてしまった。たかが、小指の指先であるのに(と言っては小指に失礼なのだが)、手術をせねばならぬのかあ。
 わたしがひとり身震いしていると、医師は、細長い鉄板にスポンジのようなクッションがついた帯状のものを取り出しはじめた。そして、指先から小指の前面と後ろを巻けるようなサイズに切り、わたしの小指に装着してくれた。
 後で調べると、これは、「アルフェンスシーネ(アルミ副子)」というもので、指の骨折・捻挫などの固定にを使用することがあるそうだ。
  「アルフェンスシーネ」というのは、アルミの板の上にスポンジが付いており、固定したい指の形に合わせて形を変えることができる固定具だという。素材がアルミで出来ているために、ニッパーなどで切断することも可能なため、必要な長さに調節することも可能であるという。主に指や手の甲などの骨折、捻挫、脱臼などの外傷に対して、患部を動かなさないよう固定するために使用されるそうだ。
 ちゃんとした装具ができるまで、ひとまずは仮の装具として、これをつけといて、と言う。

 医師「これでしばらく固定したまま生活してください」。
 わたし「このままですか?」「お風呂とかはどうするんですか?」
 医師「できれば、外さずに、つけたままお風呂に入ってください。指にビニール袋をつけるなど、ぬらさないようにして。」
 わたし「わかりました。手を洗うときはどうすれば?」
 医師「そのときは、サッと外して、ササッと洗ってからまた装着してください」
 わたし「はあ・・・」

 診察後、ちゃんとした?装具について話があるとのことで、診察室から出て待合室でしばらく待っているように言われる。すると、整形外科のリハビリの部屋から、義肢装具士の人がやってきて、わたしの小指のサイズにあった装具をつけることになった。
 小指というのは人によって大きさ太さがけっこう違うため、さまざまなサイズがあるという。また、装具自体にもいろいろ種類があって、シリコンのものとか、いろいろあるらしい。さっきからお風呂のことや手洗いのことが気になっていたわたしは、水に濡れても大丈夫なシリコンタイプのモノを選ぶことにした。
 病院から家に帰ってから、仮の装具を用いての「固定された生活」がはじまった。しばらくして、仮の装具をつけての生活で困ったことが生じた。というのは、めちゃくちゃ蒸れるのである。
 指からけっこう汗をかくらしく、しかも汗をかいたまんま装具をつけっぱなしにしているので、小指がブヨブヨにふやけてきた。装具をつけたまんまにしていると、汗がスポンジにしみついたままになってしまう。そのため、装具から少しすえたニオイがするようになってしまった。
 今から思えば仮の装具もこまめに洗えばよかった。だが、乾くまでしばらくかかるので、早く治したい身としては医師の言われたとおり、なるべく装具をつけたままで過ごすことにした。ときどき、仮の装具をはずしてみたことがあった。すると、小指はふやけて真っ白く、心持ち細くなってしまっているようだった。我が小指を眺めながら、目に涙がにじんできた。
 それから一週間がたち、正式な?装具ができたというので、再び整形外科におもむいた。とりあえず、仮の装具からは卒業、ということになり、新たにシリコン装具を装着することになった。
 このシリコンの固定装具であるが、見た目ひじょーにかんたんなつくりになっている。だが、うまい具合に、この装具をつけたままにすると、第一関節を伸ばしたままにさせ、ほとんど曲がらせない状態にすることができている。また、肌色の装具なので、周囲からは装具をつけていることにほとんど気づかれない。ただ、固定するといっても装具が指に密着して指を締め付けてしまうとうっ血して血行が悪くなって治りが悪くなってしまうので、そんなにビタッと装着させない方がよいという。
 さらに、装具の重さとしてはけっこう軽い。そのため、気をつけておかないと、いつの間にか、スポッと指から外れているのに気づかずに過ごしてしまいそうだ。とくに、お風呂に入っているときは、外れやすそうだ。

 

(5)たかが小指の指先、されど小指の指先

 
 こうして、こんどはシリコンの固定装具を右手の小指にはめ、まっすぐな状態を保たなければならない生活が続いた。さして不便も感じないだろう。そうたかをくくっていた。だが、これがなかなか不便を強いられた。
 まず、小銭をすくい取る、という普段なら何でもない動作ができにくくなってしまった。今までなら、店員さんからおつりの小銭を手で受け取ることができた。この頃のスーパーやコンビニでは、セルフレジが多くなった。そのため、セルフレジでおつりが出てくるトレイから、自分で小銭を取らねばならない。おつりが出てきたところから小銭をすくい取ろうとすると、なんと、これがまた、すべてのコインをすくい上げることができなくなってしまった。
 なんでコインをすくいとれないんじゃろかいのーと、歯がゆく、じれったく思い、自分の手の動きをよくよく観察してみると、まっすぐになったまま、カキーンと拘縮してしまい、曲げることができなくなった右手の小指が、おつりのお金をすくい取るのをじゃましてしまっているではあーるまいか。
 なるほど、小銭をすくい取るのには、ビミョーな角度で、小指を曲げておかないと、すくいにくいのだ。手の小指の微細でありながら精妙な「体の働き」というものに、小指ひとつですごいことをやっていることに少しおどろき、おおいに感心してしまった。
 あと、暮らしをおくるなかで不便さを感じることがもう一つある。それは、思いもよらないところで、まっすぐになったままの小指をぶつけてしまうことであった。
 よく、家の柱などに足の小指をぶつけてしまうことがあったりする。そんな感じで、動いた拍子に手の小指も机やイスにぶつけてしまい、「アイテテテテ」ってうなってしまう。手の小指が良い塩梅の角度で曲がってくれないばっかりに、まっすぐになったままの小指だと、こうもぶつけてしまうものなのかーと、これまたもどかしく思いながらも、考えさせられることしきりである。
 さらにもっといえば、もっとも不便さを感じてしまうのは、利き手である右手の小指で、鼻の穴をホジホジホジ・・・とほじれないことであった。これが以外に、案外と、不便さを感じちゃったことなのであった(小汚い話でスミマセン)。

 

(6)伸びた状態で固まったまんまの小指のリハビリ、はじまる

 
 マレットフィンガーなるものになって、六週間がたった。もう装具を外しても良かろう、と医者に言われ、はじめて装具を外すことになった。
 そうすると、小指の第一関節は、パキィィッといったときのように、クニャららら~、と曲がってしまうことはなく、なんとか伸びた状態を維持することができていた。だが、以前のように、小指の指先が反るような動きができていないことに少しガックリきてしまった。だが、クニャららら~、とならないだけでもマシ、と気を取り直すことにする。
 ただ、そうすると、こんどはまたやっかいなことに、小指が伸びた状態で固まったまんまの状態になってしまった。しかも、こんどは「右小指関節拘縮」という疾病をいただいてしまった。長期間、指を固定してしまうと、「関節拘縮」になってしまうのだという。そのため、自分の意志や力では曲げることができない。しかも、片方の左手でウンウンと押しても曲がらない状態になってしまっていた。これにはやはり、少し、いやおおいにショックを感じてしまっているのを禁じ得ないでいる。
 こうして、指の固定が外れたら外れたで、こんどは、二週間から四週間ほどの間、指や指の関節のリハビリ、「関節可動域訓練」の期間に入ることとなった。リハビリの目標として、「関節可動域拡大」と「筋力強化」があげられていた。
 すなわち、長い間の固定されることによって、硬くなってしまった指の関節をやわらげるため、「可動域訓練」なるもので、指や指の関節の硬さをやわらげて改善させつつ、筋力の強化もおこなっていくという。リハビリ担当のスタッフからは、お風呂に入ったときにでも、関節が拘縮してしまっている小指を、自分でもゆっくり曲げ伸ばしをしたりして、指の屈伸運動を無理のない範囲でおこなうように、と言われた。
 また、関節の可動域が制限されてしまっていると、筋力も低下してしまっているという。たしかに、長い期間固定したままだったので、指の筋力は意外なほど落ちていた。リハビリ担当のスタッフから「握力をはかってみましょう」と言われ、握力計を持って計ることになった。すると、左が27キログラム、右が16キログラムということで、マレットフィンガーになった方の右手の握力が極端に落ちていた。
 ただ、わたしが勝手に?危険視している「介護予防」や「健康長寿」を推進している〝業界〟では、握力が「男性で29㎏未満、女性で19㎏未満」が「筋力が低下している」という目安となっているらしい(大淵 2013)。ちなみに、「介護予防や健康長寿」の〝業界〟では、握力が「男性で37㎏以上、女性で24㎏以上」あれば、「優秀」であるのだという(大淵 2013)。
 そうすると、わたしの場合、右手はもちろん左手のほうもまた、成人男性の平均をかなり下回っている。どちらにせよ、わたしはマレットフィンガーであろうとなかろうと握力がない人間であるらしいのだ(注1)。
 それはともかく、リハビリの担当のスタッフからは、おとろえてしまった握力を上げるために、ソフトテニスのボールやゴムボールなどのやわらかいボールを時間があるときに握って、と言われる。そこでわたしは、リハビリの帰りに百円ショップに行って、子どものおもちゃコーナーに行き、そこにあったゴムボールを買って帰ることにした。

 

(7)小指のリハビリ、まだまだつづく

 
 マレットフィンガーで6週間ほど固定した後、こんどは指が十分に曲がらなくなるという「関節拘縮」になってしまい、数週間たった。
 だが、いまだに指がよくは曲がらない状態が続いている。関節が半分ほどしか曲がない状態が続いている。それどころか、マレットフィンガーで負傷した第一関節ではなく、第二関節のほうが腫れてきているような状態のときがある。
 パンパンに張っている感じで、関節周りも太くなっているようだった。お風呂で温めてリハビリするように言われている。関節周りも内出血したように赤黒くなっているときもある。
 朝起きると、小指がこりかたまって指が曲がらない、曲げづらくなっている。まるで、すごろくをやっていてスタートラインのふりだしにもどったかのようだ。
 皮膚自体も硬くなっていると、リハビリの担当の方が言う。もっと言えば、小指にある腱からつながっている右腕の裏側の筋肉も凝り固まっていると言うではないか。そのため、ゴルフボールなどの片目の小さめのボールで右腕をコロコロ転がしながらマッサージして凝り固まっている筋肉をほぐすとよい、と言われる。
 そこでわたしは、これまたリハビリの帰りに百円ショップに行き、これもまた子どものおもちゃコーナーに行って、そこにあったスーパーボールを買って帰ることにしたのであった。

 

(8)「小指」というのは、からだのはたらかせ方の要じゃないか?

 
 小指のリハビリをつづけてゆき、「小指」に気にかけるようになってから、「小指」についてボディふぃ~るしたり、いろいろ調べたり考えたりする機会が多くなった。
 そうすると、「小指」というのは、からだのはたらかせ方の要じゃないか、と思いはじめてきた。昨今、世間では、「体幹」というのを重要視する傾向にあるようだ。だが、「小指」や「指先」といった、からだの「末端」こそに気にかけたほうがよいのではないか、と思うようになった。
 古武術における体の使い方を研究している林さんによると、「小指」というのは現代生活ではあまり使わなくなってしまっているが、「小指」を使うことは実は身体にとって深い意味がある、と言っている(林 2022)。
 もちろん、現代社会の日常生活においても、携帯電話やスマホを用いて人と連絡をとりあったり、車を運転したり、パソコンを使って仕事をするなど、手や手の指を使う作業や動作というのは少なくはない。
 だが、林さんによると、現代の生活のなかで現代人は、手の指の中でも「親指」と「人さし指」のほうをどうも使いがちであるという。林さんが研究する古武術の観点からいうと、「人さし指」と「親指」を使うことによるデメリットというのがあるというのだ。
 それは、「力が入ってしまう」ことだという。というのも、手の5つの指の中で、「親指」と「人さし指」が力を入れやすい指であるからだという(林2022)。そのため、物を握ったり持ったりするときや、手先の操作をするような際、「親指」や「人さし指」を用いがちな現代人は、無駄に力を入れすぎたりしがちになるのだという。腕に力みが入り、からだ全体が力みがちになることで、ひいては、からだが疲れやすくなったり、からだを痛めやすくなりうる、というわけだ。
 しかしながらそれに対し、弓や剣などの武器をあつかう武道や武術では、「小指」や「薬指」を多用することが重要視されるという。というのも、この「小指」や「薬指」をおもに使うことで、剣を操りやすくなったり、弓が格段に引きやすくなったりするからなのだという。しかも、腕やからだ全体の力を抜くこともでき、あらゆる動作を行うことが楽になるという。そうした意味では、武道や武術の世界では、「小指」の重要性をボディふぃ~るしているのであろうか。
 そういや、剣道や剣術では木刀や竹刀を持つ際、まずはじめに「小指」から持つように言われたりする。また、武道や武術だけではなく、ほかの運動やスポーツであっても、野球のバットやゴルフクラブ、テニスのラケットなども、「小指」から握って、と言われているらしい。
 だが、なぜ「小指」から持ったり握ったりするのか? 「小指」から持ったり握ったりするほうがよいのはなぜなのか? その意味するところまで、シッカリ、ジックリ考えて伝え教えている人は少ないのではないだろうか。

 

(9)レッツ、ボディふぃ~る!その1:「親指」と「人さし指」を用いた動きと、「小指」に気にかけた〈身遣い〉を比べてボディふぃ~る!

 
 そこで、ここでしっかり、「小指」をはじめ、手の指に気にかけて、「からだのはたらかせ方」や〈身遣い〉というのをシッカリ、ジックリとボディふぃ~るしてみたい。
 まずは、「親指」と「人さし指」のほうを用いた動きと、「小指」と「薬指」に気にかけた〈身遣い〉を比べてボディふぃ~るしてみたい。この比較については、林さんがおすすめしている〈身遣い〉を参考に(林 2022)ボディふぃ~るしてみる(注2)。
 まず、手の甲を上に向け、「親指」、「人差し指」そして「中指」のほうをギュッと握ってみる(イラストその1)。すると、腕がおのずと内旋する(内側に向かって回転する)。林さんによれば、「親指」、「人差し指」そして「中指」を握った状態になると、肩まわりは力が入った状態で固定されてしまうという。そのため、どうしても腕の力だけを使って動いてしまいがちになるというのだ。

イラストその1

 つぎに、手のひらを上に向け、「小指」と「薬指」に気にかけて、根元から折りたたみ、親指の母指球に合わせるように握っていく(イラストその2)。林さんによるとポイントは、母指球と小指のつけ根を合わせるように握るのだという。この〈身遣い〉をやってみると、ヒジがおのずとしぼれてゆくのとともに、脇もおのずからしまってゆくボディふぃ~るがえられる。それと同時に、肩の力みがとれてゆくボディふぃ~るがえられる。

イラストその2

 林さんによると、「小指」と「薬指」に気にかけて握ってゆくと、小指と肩甲骨とがつながってゆく連動が生まれるという。さらに、肩甲骨と全身ともつながってゆく連動ができるのだという。
 林さんいわく、人間の体には「ディープ・バック・アーム・ライン」という、からだの裏側の背中の頸椎から始まり、肩甲骨・上腕の後面を通って小指にかけて走行する筋膜ラインがあり、このラインが「小指」と「肩甲骨」をつないでいるのだそうだ(林 2022)。したがって、小指と肩甲骨は筋膜を通してつながっているため、「小指」に気にかけた〈身遣い〉をすることで、小指から背中や体幹と連動した動きが可能になる、ということのようだ。
 それに対して、「親指」をおおっている筋膜のほうは、胸部のほうとつながっているのだという。そのため、腕に力を入れてしまいがちになり、腕だけの力で動かす状態になってしまうのだそうだ。

 

(10)レッツ、ボディふぃ~る!その2:指の握りを替えて相手のからだを引っぱってボディふぃ~る!

 
 それでは、こんどは相手を交えてみながら、「親指」と「人さし指」を用いた動きと、「小指」と「薬指」に気にかけた〈身遣い〉とが、どれだけ力に差が出るのか、ボディふぃ~るしてみたい。こんどもまた、林さんがおすすめしているボディワークを取り上げてみたい(林 2022)。
 まず、一人がイスにすわって手のひらを内側に向けて手を組み、腕を軽く伸ばす。もう一人は正面に立って手を握り、すわった人の伸ばした腕の輪に入れて引っかける。この基本姿勢から、握る指を替えてみる。
 まずは、「親指」、「人さし指」そして「中指」を握った手をつくって相手のからだを引いてみる(イラストその3)。すると、引く側は、全身の連動がなく腕の力だけを使って引っぱることになり、かなり力んで気張ってみても相手のからだは持ち上がらない。

イラストその3

 それでは、こんどは、指を替えて「小指」と「薬指」を握った手で引いてみる(イラストその4)。すると、引く側の体が小指から肩甲骨、そして背中のほうまでつながっているようなボディふぃ~るがえられる。そして、なおかつ、力をラクに入れやすくなる、というよりも、自分で力を入れているような実感がないまま、相手のからだを簡単にラクに持ち上げてしまっている。
 このように、指のにぎりの違いだけでも、腕力は使わず、にもかかわらずおのずと全身の連動がなされて、ラクに相手のからだを持ち上げることがボディふぃ~るできる。どの指を使って手を握るか、「親指と人さし指」にするか「小指と薬指」にするか、それだけでも「からだのはたらかせ方」がおおいに変わるのだから、驚き桃の木山椒の木ではあ~るまいか。

イラストその4

 

(11)「体幹」もいいけど、「末端」もね!?

 
 ところで、世間では、「体幹トレーニング」なるものが流行っていたりしている。その意味では、どうも現代の社会では、「体幹」というものを重視しがちになっているようである。
 「体幹トレーニング」として用いられている場合における「体幹」という語というのは、「腹部の筋肉」のことを指しがちのようだ。だが、「体幹」というのは、「肢、下肢、頭部、顔面を除いた身体の部位で、身体の胴体部分、頚部と胸腰部のこと」(中村、斎藤 他 2003)を指していて、筋肉だけではなく、骨格も内臓も含めた身体の胴体部分のことを指しているのだそうだ(注3)。
 何度も言ってしまい恐縮ではあるが、わたしが勝手に?危険視している「介護予防」や「健康長寿」を推進している、かの〝業界〟では、「加齢とともに衰えやすい歩行機能の低下を防ぎ、生活機能の向上を図るために下肢の筋肉とともに体幹を鍛えることが大切」だと言っている(「健康長寿ネット」2016年7月24日より)。
 その「介護予防」や「健康長寿」の運動としてでもよくおこわれているという「体幹トレーニング」なるもの例のひとつに、「ヒップリフト(おしり上げ)」というのがある(イラストその5)。これは「バックブリッジ」とも呼ばれていて、高齢者でも大きな負荷をかけることなく腹部とお尻、下肢の筋肉を鍛えることができるのだという(「健康長寿ネット」2016年7月24日より)。

イラストその5

 だが、「体幹トレーニング」なるもののように、むやみに「筋トレ」のようなものをしなくても、先ほどのボディふぃ~るでも取り上げたように、どの指に気にかけてうごくか、それだけでも、「からだのはたらかせ方」が大きく変わってくる。そして、「体幹トレーニング」や「筋トレ」のようなものをしなくとも、日ごろの暮らしのなかで、なにかを握ったり、なにかを持ったり、なにかを引っぱったり、自分のからだを引き上げたりするときなどなど、ありとあらゆる場面で「小指」から手の内を握ったりするなど、日ごろから「小指」に気にかけてゆくと、日常生活動作のなかでの「からだのはたらかせ方」が変わってくるかもしれない。
 まずは、「体幹」よりむしろ、「小指」をはじめとする「末端(指先)」というものや、「小指」あるいは「指先」などの「末端」に気にかけ、それにまつわる〈身遣い〉をぼでぃふぃ~るすることからはじめてみるのもアリなんじゃないかいな。まだ十分に曲げ伸ばしができないマレットフィンガーの小指をじっと見つめながら、そのように思うボディふぃ~るだー!なのであった(んでもって連載はもう少しつづくのでもあった)。

 

【注】
(1)わたしが勝手に?危険視している「介護予防」や「健康長寿」について研究している大淵によれば、「握力」の低下というのは「全身の筋力低下」というのを反映するのだという。また、「足の筋力」は、「手の筋力」と相関があるという。「手の筋力」が強い人は、「足の筋力」が強く、その反対に、「手の筋力」が弱い人は、「足の筋力」も弱いという傾向があるという(大淵 2013)。
(2)以下でわたしが描いているイラストのうち、その1からその4のイラストは、林(2022)のテキストにある写真を参考にして、わたしなりにイラストにしてみている。
(3)ちなみに、「体幹」と「インナーマッスル」とは違いがあるのだそうだ。よく、「体幹のインナーマッスルを鍛えるとよい」という表現から、「体幹」と「インナーマッスル」とは混同されているようだ。だが、「体幹」のほうは「身体の胴体部分全体」を指し、「インナーマッスル」は「身体の深層にある筋肉」を指すのだそうだ。「体幹」は「身体の部位」であり、「インナーマッスル」は「身体の筋肉のうち、奥側にある筋肉」を指すので、全く別のものということになるのだそうだ(「健康長寿ネット」2016年7月24日より)。

 

【文献】
林久仁則(2022)「『手の内』とは?~小指・薬指に隠されたチカラ」『古武術に学ぶ体の使い方 脱!筋トレ!?いにしえの知恵で暮らしの動作が楽になる』 (「NHK 趣味どきっ!」2022年 2月1日~3月29日Eテレ毎週火曜日放映)NHK出版、74-頁
中村隆一、斎藤宏 他(2003)『基礎運動学 第6版』医歯薬出版株式会社
大淵修一(2013)『健康寿命の延ばし方』中央公論新社

 

「ボディふぃ~るだー!でぐち」のぷろふぃ~る
 説明しよう。「ボディふぃ~るだー!でぐち」は、自らの身をもってからだを動かし、自らのからだで得られた感触をことばやイラストで描こうとするフィールドワーカーである。「ボディふぃ~るだー!でぐち」がホソボソと活動して、はや20年。一時期その名を封印し、数年前までひっそりとなりをひそめていた。だが、昨今の「鍛える身体」「気張る身体」としての身体観にとらわれた「筋力増強至上主義」的な筋トレブームにモヤモヤしたものを感じはじめた。そこで、あらためて再び密かに「ボディふぃ~るだー!でぐち2号」を名乗り、「からだのはたらかせ方」に気にかける〈身遣い〉のフィールドワークをはじめることとあいなった。「鍛える身体」「気張る身体」としての身体観とは異なる、「気にかける身体」「ゆるま~る身体」としての身体観にもとづいた〈身遣い〉を、さまざまな身体術の達人から学びながらボディふぃ~るし、シノゴノと感じ考えたことをツラツラとことばやイラストで描いてゆきたい。
 (「ボデイふぃ~るだー!でぐち」の本名は、出口泰靖。世を忍ぶ仮の姿は千葉大学文学部教員。専攻は社会学。著書に『あなたを「認知症」と呼ぶ前に』〔生活書院〕など)

 

*この連載は偶数月の月末にアップいたします。