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【Web連載】


『生死本』(仮)の準備・1


立岩 真也  
(2012/08/7)

 ◆文献表(作成中)

  安楽死だとか尊厳死だとかいった主題について、『良い死』『唯の生』(二〇〇八年と二〇〇九年、ともに筑摩書房)の二冊の本に書いた。それから基本的に言うべきことに変わりはなく、とくに足すべきこともない。ただ、それらで、もう一冊、関連する本・言論を紹介する本を出すことを予告していた。もとになる原稿はその時にほぼ一冊分あったのだが、他の仕事・事情が様々あったりもして、まとめる時間がなかった。ただそろそろ出せねばとは(いつも)思っていた。そこでこの場を借りて、補う部分を補いながら、仕事を終わらせ、刊行してもらおうと考えた。
  それらの本が出る前、二〇〇五年のはじめからしばらく、「尊厳死法」を作ろうという動きが(幾度目か)あった(その時のことは『唯の生』第2章の「近い過去と現在」、第4章「現在」に記した)。今年(二〇一二年)になってまた法律を作ろうという動きが出てきている。(書いている時点で、法案が出されるのかどうか、わからない。そんなことを議論するような環境にない、から出ない、というような立派な国会(議員たち)ではないが、いくらなんでも無理ではないかと私と思っている。ただ、まだ国会はやっている。)取材依頼などいただくと、本を読んでください、とすませるわけにもいかず、同じことを手短かに話したり、書いたりといったことをすることになっている。(以上について「安楽死・尊厳死 2005」「安楽死・尊厳死 2012」。)
  今度の本はその手前で、過去を振り返ることになる。『唯の生』の第3章「有限でもあるから控えることについて──その時代に起こったこと」で「終末期」についてどんな話がなされたのか、おもに高齢者医療・福祉の業界で起こったことを書いたが、本書は、もう少し広い範囲を振り返る。

  そのもとがある。先に記したその二〇〇五年、世に起こる出来事を追い、字を扱うのが(人文社会系の)学者の仕事で、その分他の仕事ができない(ことになっている)のだから、できることはした方がよいのだろうと思い、まず数日かけてホームページを増補した。「安楽死・尊厳死」というファイル(ページ)からつながるファイルたちである。それからもぼつぼつと続けた。それらが収蔵・掲載されているHPは二〇〇七年度から(二〇一二年度まで)グローバルCOE「「生存学」創生拠点」(今は「生存学研究センター」)のホームページになって、関心のある大学院生他がリサーチ・アシスタント等として増補してもくれた。それで現在、直接に関わる(「et」で始まる)ファイルが一一〇ほど、計六メガバイトほど。これに本の目次のファイルやら、これから名前が出てくる太田典礼だとか松田道雄といった人物のファイル等を加えるとさらに多くなる。文字の部分だけを取り出しても本書の何冊か分にはなっている。
  ただそうした資料は──とくに私(たち)のように工夫が足りない場合──やはり羅列的かつしばしば断片的であり、よほどその主題に入れあげないと読み込むのは難しい。難しくなくともその気になれない。一つには、私にはこう見える、思えることを書いて読んでもらう。それは一つの物語ではあるが、物語だから、それに反対することもできる筋をもったものとして読んでもらうこと、そして考えてもらうことができる。さきの二冊の本はそうした本だ。本書も、かなりの部分はたんなるリストでありつつ、またどこからでも、ばらばらに、読んでもらえるものでありつつ、「こんなかんじ」と(すくなくとも筆者は捉えていることが)わかるようになっている。
  ただ他方で、本に書ける量は限られている。これで同じ(ような)主題で三冊、というだけですでに顰蹙ものである。どうしたものか。
  このたびに限らず、そのことをときどき考えることがあった。とくに日本語の本はすぐ厚くなってしまい、書くべきことを十分に書けないことが多い。しばしば、事実を伝えるのにも中途半端で、考えを展開するのも中途半端になってしまう。そうした半端な書き物が多い、多すぎると私は思ってきた。(それは、たんに書籍にする際の制約というだけのことでないと私は思っているのだが、そのことに関わる愚痴はここではよしておく。)そこで、詳しくは、個別のことについてはHPでということにしたのでもある。また情報は新しく加わる部分があるが、毎年本を書いて出してもらうのは難しい。そこで基本的な筋が使えるものである限りは、本は本として残してもらい、新しく起こったことやわかったことはホームページに載せるというやり方がよいだろう。そう思った。本書に出てくる書名や人名を検索してもらえばよい。多く貧弱で失望してしまうとしても、何かは出てくるはずだ。
  ある筋をもつ文章はそれとしてあった方がよい。またある分量以上の文章は本になった方がよい。同時に、関係する資料はそれとしてホームページで読めたらよい。そして両者の行き来がたやすい方がよい。そんなことを思っていた。すると、近頃は電子書籍がようやく日本でも普及し始めた、らしい。その中の言葉から直接にHP上のファイルに飛んでいけるようにできるらしい。そこで、しばらく時間はかかりそうだが、本書を電子書籍としても提供することを考えている。できたらお知らせする。

  もう一つもとがある。とくにここでとりあげるような本たちは、「私は」、読んでときに気分が悪くなることはあるが、楽しいと思うことはあまりない。すぐれた本であっても楽しめることはあまりない。そして、こういうジャンルだけでなく、私自身は長くほとんど本を読まず、時間をもっぱら書くこと(と種々の読むこと以外のこと)に費やしている。なのに本の紹介とはおこがましい。
  にもかかわらず、『看護教育』(医学書院)という雑誌に、二〇〇一年から二〇〇九年まで毎年十一回(月刊なのだが、七・八月は合併号になるので年十一冊)、計一〇一回、本の紹介をした。それを使い、補って、本を作ろうと思った。というかその連載はもともと、ある出版社の編集者から本の紹介の本を依頼され、そのためには原稿がいるから、そのために始めたものでもあった。その企画自体は、出版社の栄枯盛衰に関わる事情で宙に浮いたのだが、やはり本があってもよいだろうと思ってもきた。本書ではその四分の一弱を使うことになる。註を新たに付した。そして、この場(生活書院のサイト)を借りて、これからごく短期間の間にそこに記せなかった部分を補っていく。今回はわずかだが、前期したHP(上のファイル)へのリンクもつけてみることにする。
  楽しくないことをなぜ、について。それは、かつて(ずっと以前に)依頼があったという理由以外に、このぐらい知ってほしいことがあると思うからだ。
  私は多くのことを知らないが、それよりもなお知らない人がいる。むろん、なんでも覚えていたらたいへんで、人はたくさんのことを忘れるし、忘れたらよい。しかし、そうとばかりも言ってられない。例えば二〇〇五年に出されると報道された法案は、一九七八年に日本安楽死協会が作った「末期医療の特別措置法案」のほぼ蒸し返し、おおむね同じものである。その時は野間宏・水上勉・松田道雄といった人たちの反対もあって、法律にならなかった。
  推進する側(の一部)には連続性がある。あの時実現しなかったことが、時代が変わり、今度こそと思っている人もいるだろう。だが、賛成の人も、よくわからない人も、また批判的な人も、多くはそのことは知らない。それはよくないと思う。その時は提出されなかったものが、今度──複数の案が示され、どんなものにしたいのかもよくわからないのだが、「安楽死・尊厳死 2012」にいくらか情報がある──提出されそして通るとしたら、それはかつても正しかったことがようやく実現されるということなのか、そうでないのか。何かが変わったのか、そうでないのか。そんなことも考えられないまま、ものごとが決まっていくのはよくないと思う。「現代史」を辿ることが、いやでも必要になる。
  ただ本の多くはすぐに品切れ・絶版になってしまう。今は出ていないものに紹介すべきものがある。紹介する本が買えない本ばかりでは困る。ただ、図書館にあれば借りることはできる。そして、これが本書で明らかにされることの一つだが、あきれるほど同じようなことが繰り返し語られてきた。「死について語ることを避けてきた」という話が、繰り返し、もう三十年以上、語り続けられている。だいたいこんなものだ、ということをわかってもらえたらよい。そして、中に読まねばと思うものがあったら──あるはずである──読んでもらったらよい。[続く]


良い死    唯の生



■上記とひとまずべつに、私たち?が関わった生活書院の本・1(新しいものから3つずつぐらい)

◆天畠 大輔 20120510 『声に出せないあ・か・さ・た・な──世界にたった一つのコミュニケーション』,生活書院,256p. ISBN-10:490369092X ISBN-13:978-4903690926 1800円+税 [amazon][kinokuniya] ※

◆立命館大学生存学研究センター 編 20120320 『生存学』Vol.5,生活書院,288p. ISBN-10: 4903690911 ISBN-13: 978-4903690919 2200+110 [amazon][kinokuniya] ※ n08 sz

◆新山 智基 20111201 『世界を動かしたアフリカのHIV陽性者運動──生存の視座から』,生活書院,216p. ISBN-10:4903690857 ISBN-13:978-4903690858 3150 [amazon][kinokuniya] ※


『声に出せないあ・か・さ・た・な』表紙    『生存学』Vol.5表紙    『世界を動かしたアフリカのHIV陽性者運動』表紙


UP:20120727 REV: