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【Web連載】


カレン事件補遺──『生死本』(仮)の準備・3


立岩 真也  
(2012/08/27)

 ◆・3…

 ◆文献表(作成中)

 *このごろのことについては「安楽死・尊厳死 2012」等でお知らせしている。本日、27日「尊厳死の法制化を認めない市民の会」発足集会。

 *本の紹介のための本のための補足のための草稿を前々回から掲載させていただいている。ただ構成と分量をいろいろ考えていくうち、またしても、1冊では終わらず、2冊になりそうで、その1冊目は、上記の「時節がら」のこともあり、薄くて安めのものにしていただければと思うようになった。結果、今回の本には使わない(いずれ、というか2冊めで使う)ものも出てきそうだ(例えば前回=第2回)。というわけで毎度ほんとに脈絡がないこと、おわびします。
 *その1冊めのかなりの部分は、有馬斉さんに書いてもらうことに(ずっと前から)なっている。ごりごりの(生命)倫理学の議論の紹介と、他のそうでない(私担当の)部分がうまいことつながるのか、できてみないとわからないところがあるが、おもしろい、かもしれない。

 *たまたま検索していたら、前回に書いた文章について、以下のような反応を見つけた。そうか、と思った。たくさんのことを御存知の方もたまたま「穴」があったり。私は「なんにも知りません」といなおることにして久しいけれども。
 http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/65476665.html
cf.三野宏治作「アメリカの脱入院化」
 拙著『唯の生』第3章「有限でもあるから控えることについて――その時代に起こったこと」(ここでは施設/在宅という対と医療/福祉という対が組み合わさるわけですが…。)
 ようするに、金のかけ方によっては、施設のほうがかかることもある(そして福祉施設より病院の方がかかる)。すると、かつて施設・脱施設を巡って対立していたはずの双方が同じことをいうことにもなる。…
 今度出る(新刊ではなく重版)予定の本にすこし書こうかと。出たらお知らせします。

 *紀伊国屋書店で私が選書したブックフェア「【じんぶんや第83講】立岩真也 選「身体に良き本――主に運動の方面から」 」というのをさせていただくことになりました。生活書院の本(結果として)たくさんはいってます。よろしく。
 →「身体に良き本――主に運動の方面から」http://www.kinokuniya.co.jp/20120825095245.html→訂正:新田さんの本のところ「練馬」→「北区」)

 以上前文。

□カレン事件補遺

 こんどの(1冊め)の本で主にカレン・クインラン(Karen Ann Quinlan)事件を主題にした香川知晶の『死ぬ権利――カレン・クインラン事件と生命倫理の転回』(香川[2006])を紹介した文章を収録(再録)するつもりだ。以下、上記の「事件」についてのhpにみな出ていることではあるのだが、その「註」として付す予定の文章の草稿。他に何かみつけたら教えてください→TAE01303@nifty.ne.jp

・日本で

 この事件について翻訳された本として、コーレン『カレン 生と死』(Colen, B. D.[1976=1976])、フィリス・バッテル『カレン・アンの永い眠り――世界が見つめた安楽死』(Battelle, Phyllis[1977=1979]、訳者あとがきによると本になる前に『週刊現代』『リーダーズダイジェスト』にも一部の翻訳が載ったという)がある。
 法学者による著作では唄孝一(〜二〇一一)の『生命維持治療の法理と倫理』(唄[1990])がこの事件やこの事件に関する報道(の誤り)について書いた文章を収録しており、非常に重要。
 『月刊障害者問題』という個人雑誌?を刊行していた本間康二(一九五一〜)の、その雑誌の最初の号に「一番大切なものは“生命=いのち”――「カレン裁判」をめぐって」(本間[1976])があり、その三周年記念特集号の三七号には「カレン裁判の全貌」(本間[1979a])、「カレンがともす灯」(本間[1979b])が掲載された。hpで全文を読める。
 玉川桂(東京都、一九六八年にALS発症、七二年病名判明)は一九七三年三月に胃にチューブを入れる手術をした後で呼吸困難・意識不明になり、気管切開、人工呼吸器をつけた。『終わりに言葉なきことがあり』(玉川よ志子[1983])より。

 「現在、この種の病気に対する医療の常道としては、呼吸困難に陥っても、気管切開→人工呼吸器(生命維持装置)までして、患者の生命の維持をはからないそうである(『カレン・アンの永い眠り』講談社刊。その他より)。私どもの場合、医療の常道が守られなかったことはさいわいだった。」(玉川[1983:64-65])

・当地で

 ペギー・アンダーソンの『ナース――ガン病棟の記録』(Anderson[1978=1981])に記述があり、その記述がチャンブリスの『ケアの向こう側――看護職が直面する道徳的・倫理的矛盾』(Chambliss[1996=2002])に引用されている。

 「特定の一人が、それをしなければいけないということではない、そのナースは感じていた。組織には、個人、特に法的責任のない人たちを保護しつつ、生命維持を中止するためのテクニックがあり、それは組織あるいは集団による行為であるべきだ。
 実際、一九七〇年代末の、かの有名なカレン・アン・クインランのケースを機に、表立ってではないが社会全体が決定に参加するようになってきた。[…]
 この判決は、後のナンシー・クルーザン裁判への連邦最高裁判所の判決(一九九〇年)とともに、アメリカのDNR政策を刷新するものとなった。
 ノーザン・ゼネラル・ホスピタルのあるナースは次のように話してくれた。
 「カレン・アン・クインラン裁判の前にも、人工呼吸器を切ることは時々あったけど、今はもっと多くなったわね。個人的なかかりつけ医を部屋に呼んで、やってもらうことが多いみたい……[医者を]二五年もやっていれば、「この患者はもう回復することはないだろう」と言うこともできるわ。そして引き抜くの……チューブ類を取り去って、人工呼吸器を切るの。」【インタビュー】
 人工呼吸器を外すことは最近始まったことではなく、変わったのはそのことが世間的にも法的にも認められるようになったことである。ペギー・アンダーソンは著書『Nures』の中で以下のように述べている。(p.230)

 「この[クインランの]ケースは異例の事件である……延命手続きがもはや適切でないと判断された時には、患者を死なせる決断は毎日のように下されている。」
 このような延命の中止は極めて一般的に行われていたが、クインランのケースで特筆すべきことは、それが法廷に持ち込まれ、世間に広く知られることとなった点である。さらに、この判決は多くの医療関係者にとって次のような意味で判断のよりどころとなった。第一に、この種の問題に法律家が介入する場合もあり、厄介なことになる場合も考えられること、そして第二に、生命維持装置の停止を裁判所が認めることもあるということである。クインランのケースは医療現場における倫理的判断に裁判所が正式に介入できることを印象づけ、またこのケースが有名になったことにより、医療関係者たちは自分たちの決定はもはや個人的なものではないと思うようになった。この意味で、クインランは生死に関わる決定の、全く新しい土壌を作り出したと言える。(p.231)」(Chambliss[1996=2002:229-231]、下線部は原文では傍点)

□おまけ

 『中外日報』(中外日報社)という新聞から依頼を受けて書いた文章。宗教関係の新聞のようだが、いろんな人のコメントが載るのだそうで、一人分は300字までときわめて 短いものを書かないとならなかった。

 「自己決定についてという御依頼なので、幾つか指摘させていただく。第一点。死に関わる自己決定が認められるか。自殺幇助は法的に禁じられているし、法律云々を別として、自殺を止めに入ることは許容される、むしろなされるべきことだと一般にされる。死の自己決定権の正当性は自明ではない。次にこの自己決定権を認めたとしても問題は残る。第二点、主に家族の身体的・経済的負担のために死を選ばざるをえなかった人たちが多く、いくらでも、いる。生きられる条件をきちんと用意してから選択を論ずるべきだという主張はまったくもっともだと思う。加えて第三点、事前の決定はどこまで有効か。変更可能だとされても、言葉を失えば言えない。健康な状態の時の決定は必然的に想像による。それは病者・障害者への偏見に基づいていると言えないか。」


■上記とひとまずべつに、私たち?が関わった生活書院の本・3(新しいものから3つずつぐらい)

定藤 邦子 20110331 『関西障害者運動の現代史――大阪青い芝の会を中心に』,生活書院,344p. ISBN-10: 4903690741 ISBN-13: 9784903690742 \3000 [amazon][kinokuniya] ※ dh. ds.
橋口 昌治 20110325 『若者の労働運動――「働かせろ」と「働かないぞ」の社会学』,生活書院,328p. ISBN-13: 9784903690704 \2625 [amazon][kinokuniya]
天田 城介北村 健太郎堀田 義太郎 編 20110325 『老いを治める――老いをめぐる政策と歴史』,生活書院,522p. ISBN-10: 4903690733 ISBN-13: 9784903690735 \3150 [amazon][kinokuniya] ※


『関西障害者運動の現代史』表紙    『若者の労働運動』表紙    『老いを治める』表紙


UP:20120827 REV: