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【Web連載】


オランダの安楽死──『生死本』(仮)の準備・4


立岩 真也  
(2012/09/03)

 *「安楽死・尊厳死 2012」すこし更新しました。

 *紀伊国屋書店で私が選書したブックフェア「【じんぶんや第83講】立岩真也 選「身体に良き本──主に運動の方面から」 」継続中。その中から生活書院の本(結果として)を3つずつぐらい初回していきます。この頁の下です。
 →「身体に良き本──主に運動の方面から」http://www.kinokuniya.co.jp/20120825095245.html

 以上前文

・4・…

文献表(作成中)

「死の決定について・2」(2001)

■その註?(あらたに書いた部分)

  論文は多数ある(→hp「安楽死・尊厳死:オランダ」参照)が、法学者による単行書としては 『オランダの安楽死政策──カナダとの比較』(宮野彬[1997])。基本的には一九九二年のカナダのマニトバ大学での安楽死会議の各報告を順番に紹介するというひどくあっさりとした作りの本。この会議での報告で提出した原稿を集めた本(Sneiderman & Kaufert eds.[1994])がでていて、この宮野の本もそれを頻繁に参照している。終わりの方に、主に国内で出た文献を使ってオランダでの動向を紹介する部分がある(宮野[1997:212-268])。
  『オランダの安楽死』(山下邦也[2006])は、長く『香川法学』等に論文を発表してきた著者(二〇〇四年没)の遺稿集。その制度・法の歴史については最も詳しい(が品切れになっているようだ)。山下らにより日本に幾度も招かれ講演などを行なったオランダの法学者ペーター・タック(他)の論文及び「要請に基づく生命終結および自殺幇助(審査手続)法」(二〇〇一年)全文の訳文を集め甲斐克則により編集され出版されたのが『オランダ医事刑法の展開──安楽死・妊娠中絶・臓器移殖』(Tak/甲斐編訳[2009])。書籍としては、法律制定後の事情も含め、複雑な法律の制定過程とその内容を知るにはこの本が唯一ということになるだろう。オランダでは(積極的)安楽死が合法化されていると報道され、さきの私の文章もそうなっている。それに対してそれは「誤解」であるという指摘もまた──二〇〇一年法(四月一日施行)の前後でその指摘の意味も変わってくるのだが──繰り返し法律の専門家からなされてきた。
  まず二〇〇一年以前には法律そのものはなかった(最高裁判所の判決において刑の免除がなされ、それが判例法として機能した)。それはその通りである。次に、二〇〇一年の法律では、刑法二九三条第一項は「他人の明示的かつ真摯な要請に基づいて故意に生命を終結させた者」については有罪とされるが、その第二項がその二〇〇一年の法の「第二条に規定する相当の注意(dure care)の条件を遵守した医師により実現され、かつ遺体処理法第七条二項に従って自治体の検死医に申告されたときには、犯罪とならない」(Tak/甲斐編訳[2009:45])と改正された。このことを合法化と呼ぶのか、あるいは別の言葉で言うのかはおいて、そのようにことは決まった。タックは自国の法律(およびそれ以前の判決、判例法)を、言われているほどひどいものでないと言い、「要請に基づく生命終結を認める」ものであるとする見解(他)を「論証ばかりか、説明においても、実際に間違っているか、偏向している」(Tak/甲斐編訳[2009:1])と記しているのだが、上記の法文を読めば、「犯罪とされなくなったこと」とどうしても区別する必要がないのであれば、日常的な言葉の用法からは、合法化と言ってもよいように思われる。
  そして、本文にも一部あげたが、報道番組やジャーナリストによる著書・記事にずいぶんと採り上げられてきた。一九九四年のTBS「スペースJ」でオランダのドキュメンタリー番組「依頼された死」が放映された。その内容とその反響(相当数の抗議も寄せられた)については『ALS』(立岩[2004:326-341])で紹介した。著書としては、『自ら死を選ぶ権利──オランダ安楽死のすべて』(シャボット=Shabot, Janette A. Taudin=ジャネット・あかね・シャボット)[1995])、『麻薬・安楽死の最前線──挑戦するオランダ』(平沢一郎[1996])、『安楽死──生と死をみつめる』(NHK人体プロジェクト編[1996])、『安楽死のできる国』(三井美奈[2003])。これらは現地報告といったもので、とくに前の二つはそれなりの分量もあり、様々な面を取材して記述している。他にも、鈴木崇夫[2002:209-217]等、部分的な言及がある文献は多い。むろん、それらでは肯定的なことが様々に書かれるのだが、そうとばかりも読めない部分もある。
  「オランダで行われている安楽死や自殺幇助のほとんどは、がんの末期患者で、自分では何もできなくなり、すべてを他人に頼らなければならないという状態で余命予測の二、三日以内の人で、最長でも二、三週間の屈辱感に耐えられないという患者です」(インタヴューに対するオランダ人の回答──後藤猛[1996:133]に掲載。)   所謂「ペイン・クリニック」が整備され痛みの制御が十分な水準に達した時(オランダではそうだと言う)、自己決定される死は身体的な苦痛から逃れるためのものでなくなる。この時、その決定の理由は、「屈辱感に耐えられない」といった、より「人間的」なものになる。このことを『私的所有論』(立岩[1997:168])で述べた。
  また、オランダの一般医は保険機関からの支払いにより収入を得ており、その額は登録患者の人数に応じた定額になっているため、費用のかかることを行なわないのが得になる仕組みになっていること、このNHKの番組でこうした制度を捉える視点が欠如していることを指摘する伊藤[1996:44]が重要であることを『ALS』(立岩[2004:427])で述べた。
  そして『美しいままで──オランダで安楽死を選んだ日本人女性の「心の日記」』(ネーダーコールン靖子/秋岡史解説・編[2001])がある。歌集『オランダはみどり』(ネーダーコールン靖子[2000]もある。この人とその死についてについてごく短い文章だが佐佐木幸綱[2005→2006]もある。それは藤原書店のPR誌『機』にリレー連載という形で書かれた原稿を集めた『いのちの叫び』(藤原書店編集部編[2006])に収録されている(この本には私の短文[20000415→2006]も収録されている)。また佐々木はネーダーコールン[2000]に「解説──靖子さんの歌」を書いている。
  以下のような、無茶といえば無茶な──オランダ安楽死協会の人自身が言うのだが──評言も──別に紹介する(そこでその意見に全面的に賛成できかねることも述べる)ヘンディンの本にある。
  「カルビニズムの残滓はオランダ人の生活の中になお浸透している。カーロス・ゴウメイスの引用によると、NVVE(オランダ安楽死協会)のウィリアム・ルースはこう語っている。「オランダの人間はだれでもカルビニストです。プロテスタントもカルビニストなら、カトリックもカルビニスト。私のような無神論者でさえ、そうです。この国の共産主義者は最悪のカルビニストでしょう。それは一体、何を意味するのか。それはわれれわが規則好きだということです。しかし、その規則の意味をとやかく言われることは、好きじゃないんです。」(Hendin[1997=2000:177])
  規則好きがどこまでカルヴィニズム(カルビニズムでも、どうでもよい)と、オランダと関係があるかわからない。(むしろ一般に言われるのは、オランダ(人)は麻薬にしてもなんにしても自由を大切にするということだ。)ただ、『私的所有論』第6章2節「主体化」2項が──ウェーバーが『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』で検討した──「二重予定説」で、つまりはカルヴィニズムを取り上げたのだが、そこにある教義とここで選ばれる死との親和性はあるように思う。行いが人を規定する。行いの不在あるいは価値のない行いは無価値であり、その生は無価値である。人が自身を統御することは立派なことである。だから死を統御すること、計画し実行することも立派なことである。と、そういうことになる。

■文献

◇藤原書店編集部 編 20061230 『いのちの叫び』,藤原書店,217p. ISBN-10: 489434551X ISBN-13: 978-4894345515 2100 [amazon] ※
◇Hendin, Herbert 1997 Seduced by Death: Doctors, Patients, and Assisted Suicide,Georges Borchardt, Inc.=20000330 大沼 安史・小笠原 信之 訳,『操られる死──〈安楽死〉がもたらすもの』,時事通信社,323p. ISBN:4-7887-9936-7 2940 [amazon] ※ d01〈II:284,III:○〉
◇伊藤 道哉 1996 「ALSとともに生きる」,『心身医療』8-6:42-49(726-733)
◇後藤 猛 1996 「安楽死を生んだ気質と風土」,NHK人体プロジェクト編[1996:99-143] <168>
◇三井 美奈 20030720 『安楽死のできる国』,新潮社,新潮新書,189p. ISBN: 4106100258 714 ※ [amazon] ※ d01 ts2007a〈III:○〉
◇宮野 彬 19970520 『オランダの安楽死政策──カナダとの比較』,成文堂,268p. ASIN: 4792314399 5250 [amazon][kinokuniya] ※
◇ネーダーコールン 靖子 20000917 『オランダはみどり』,ながらみ書房,259p. ISBN-10: 4931201318 ISBN-13: 978-4931201316 2625 [amazon] ※ d01 et-ned〈III:○〉
◇ネーダーコールン 靖子/秋岡 史 解説・編 20010730 『美しいままで──オランダで安楽死を選んだ日本女性の「心の日記」』,祥伝社,249p. ASIN: 4396410123 1600 [boople][amazon] ※, d01.et.〈III:○〉
◇NHK人体プロジェクト 編 1996 『安楽死──生と死をみつめる』,日本放送出版協会,310p. <168>
◇佐佐木 幸綱 200512 「安楽死を送る側」,『機』(藤原書店)→20061230 藤原書店編集部編[2006:142-143]
◇シャボット,ジャネット・あかね(Shabot, Janette A. Taudin) 1995 『自ら死を選ぶ権利──オランダ安楽死のすべて』,徳間書店 238p. ASIN: 419860231X [品切] [amazon][kinokuniya] ※〈III:○〉
◇Sneiderman, Barney & Kaufert, Joseph M. eds. 1994 Euthanasia in the Netherland: A Model for Canada?, Legal Research Institute of Manitoba, Contemoorary Issues 5[1994]
◇鈴木 崇夫 20020520 「安楽死問題のゆくえ」,武田・森・伊坂編[2002:202-218]〈III:○〉
◇武田 純郎・森 秀樹・伊坂 青司 編 20020520 『生と死の現在──家庭・学校・地域のなかのデス・エデュケーション』,ナカニシヤ出版,288p. 2600+税 ISBN-10: 4888486905 ISBN-13: 978-4888486903 [amazon] ※ d01.〈III:○〉
◇立岩 真也 19970905 『私的所有論』,勁草書房,465+66p. ISBN-10: 4326601175 ISBN-13: 978-4326601172 6300 [amazon][kinokuniya] ※〈I:48,72,79,84,87,89,90,94,122-125,131,211,216,217,221,230,248,
312,315,323-325,330,335,II:54,68,69,84,85,96,240,288,298,
299,304-306,310,III:○〉
◇───── 20000415 「弱くあることの方へ」,『機』103(2000-04):25(藤原書店)→2006/12/30 藤原書店編集部編[2006:198-199]
◇───── 20041115 『ALS──不動の身体と息する機械』,医学書院,449p. ISBN:4260333771 2940 [amazon][kinokuniya] ※ als.〈I:73,75,79,101,107,129,138,155,203,209,210,213,225,227,309,
II:65,74,77,91,94,231,239,264,265,274,279,284,313,331,378,III:○〉
◇Tak, Peter J. P./甲斐 克則 編訳 20090725 『オランダ医事刑法の展開──安楽死・妊娠中絶・臓器移殖』,慶應義塾大学出版会,199p. ISBN-10: 4766415566 ISBN-13: 978-4766415568 4000+ [amazon][kinokuniya] ※ be.et.a08.et-ned.ot. ◇Weber, Max 1904/1905 Die protestantische Ethik und der 》Geist《 des Kapitalismus=梶山力・大塚久雄訳、『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』、岩波文庫 ◇山下 邦也 200603 『オランダの安楽死』,成文堂,267p. ISBN-10: 4792317134 ISBN-13: 978-4792317133 5250 [amazon][kinokuniya] ※ d01.et.et-ned.

『私的所有論』表紙     『ALS』表紙


■紀伊国屋書店のブックフェアに出ている生活書院の本・1(3つずつぐらい)

横塚 晃一 20070910 『母よ!殺すな 新版』,生活書院,432p. ISBN9784903690148 10桁ISBN4903690148 2500+ [amazon][kinokuniya] ※ d dh
  *1975初版、81年増補改訂版。著者は「青い芝の会」という小さな組織に関わり、78年に、42歳で、たぶん死なずにすむこともできたがんで亡くなった。20世紀の名著。

◆山下幸子 20080930 『「健常」であることを見つめる──一九七〇年代障害当事者/健全者運動から』,生活書院,243p. ISBN-10: 4903690253 ISBN-13: 978-4903690254 \2625 [amazon][kinokuniya] ※ ds
  *「自立障害者集団友人組織関西グループゴリラ連合会」という、ありえない名前の組織が一時期あり、様々なすったもんだがあり、くだらないと思われてけっこう、の記録。

◆寺本 晃久・岡部 耕典・末永 弘・岩橋 誠治 20081110 『良い支援?──知的障害/自閉の人たちの自立生活と支援』,生活書院,298p. ISBN-13: 9784903690285 ISBN-10: 4903690288 2415 [amazon][kinokuniya] ※
  *足が動かなければ足の代わりになるものがあればいいだけの話だ。しかし、この本に出てくる人たちの「支援」とはどんなことか。


『母よ!殺すな 新版』表紙     『「健常」であることを見つめる──一九七〇年代障害当事者/健全者運動から』表紙     『良い支援?──知的障害/自閉の人たちの自立生活と支援』表紙


UP:20120903 REV: