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【Web連載】


それはやはり社会の根本に関わる:
『生の技法』広告続
連載:予告&補遺・12

立岩 真也  (2013/05/15)
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学校での使い方・続

 『私的所有論 第2版』(文庫版)お待たせしています。もうすぐ出ます。
 『生の技法』のほうについて。前々回、かつて3年制の大学の授業で使っていたことを書いた。第1章「〈私〉へ――三〇年について」というか安積遊歩(純子)の話から始めて、(脱)家族(脱)施設という話をして、というような流れで話をしたことを書いた。
 もちろん、学校や学生によっては資格をとらなければならないということもある。私が一九九五年度から二〇〇一年度までいた信州大学医療技術短期大学部(現在は医学部保健学科)の看護学科(現在は4年制の看護学専攻)で担当していてこの本を使ったのは、た しか2年生の「社会福祉学」の講義だった。看護師の試験には、ほんのすこしだが「社会福祉」関係の問題がでる。
 社会福祉のほうの勉強をする時間があるならまずは看護の問題が解けるようにしたほうがよい、と言いつつ――それは限られた時間を有効に使って受かろうとするならまったく正しい助言だ――、とはいえ、その科目担当者として「試験対策」はしなくてはならないから、「過去問」を集めて整理して印刷して配布して「傾向と対策」は、きちんと、やった。(そういえばと思って、グーグルで検索したら、以前作って――当時は大学のサーバーに置かれていた、今のサイトの原型になった――サイトに載せたあった過去の試験問題・回答・解説というのが出てきた(ずっと掲載され続けていたということだ)。「看護」というページの下にとりあえず移動させてそこに残しておくことにした。)そしてそれは、この本の後半とも、もちろん、関係はあるから、そう唐突ということでもなかった。具体的な制度についてどのぐらいの水準の問題が出るのかはわかるからそれはそれで対応する、というか対応することを予告して、「福祉」「制度」の話にはいっていく。第7章・第8章あたりに書いてあることはかなり細かな部分やややこしい経緯も含むから、これをずっと紹介していくことはできないし、しない。まず一つの再開の仕方は、「社会福祉、なに?」、というものだ。
 「福祉(Welfare)」のほうは、これは定義できない、というかあまり具体的に定義しないほうがよいようなものである。では「社会」は?、ということになる。社会がその「福祉」に責任をもつこと、そのようなものとして行なわれることの全体を「社会福祉」と呼ぶのだ、と言う、ことにする。
 なぜか。まず、消去法でそうなるのだと言う。まず――以下4つ出てきてそれはいつも同じなのだが番号は毎回変わったりする〜すいません――(1)「家族」か? しかしそれはできない、あるいは選ばないことにしたのだった。そして(2)「政府」が税金で提供する「施設」もいやだということになった。では(3)「市場」は? だがこれも(金がないから、自腹では)使えない。そこに払える金があればそもそも苦労はしていない。とすると実際どうなったか。どうして「地域で暮らす」ことにしたか。(4)「ボランティア」ということになった。
 これしかないからボランティアを集める。「社会人」もいたが、大学生が多かった。私たちが調査していた中央線の西の方(国分寺・国立・立川…八王子)はもとからある一橋・津田塾等の大学、法政・中央など都心から移ってきた大学がわりとたくさんあって、ひまな学生も多かった。そんな事情でそこらに住むことになった人が多かったといったこともある。で、大学にキャンパスに入り込んでビラをまいたりして、ボランティアを釣るわけだ。そして、介助・介護に「入って」もらう。しかしこれで動かしていくのは、とくに重度でたくさん時間が必要な人の場合、やってみるとわかることだが、たいへんだ。私も、その手伝い――介助の「ローテーション表」を埋めるために介助者リストにのっている人に電話していく――をすこししたことがあるが、それは介助そのものよりよほどたいへんだった。学生は卒業すればいなくなることも多い。ようするに、人が足りない。そうした介助者を得て暮らしていく人が地域に増えていくほどたいへんになる。
 ではどうするか。説明は省くが、単純に言うと、この世の中には(1)から(4)までの4つの「領域」しかないのだ。そしてその4つともだめだということになる。ではどうするか。ただの学者だったら「難問だ」とか言ってすませればよいが、生活がかかっている本人にとっては、本当に死んでしまうことになる。それではまずい。
 死ぬわけにはいかない。ではどうするか。もう1回みなおしてみる。(2):政府・政治の何がわるかったのか。せっかくの金(税金)をほしくないもののために使ったのがわるかったのではないか。つまり使い方がまずかったのではないか。とすると、税金を使うというやり方は採用することにして、それを使う使い方を変えればよいのではないか。
 実際にそんな具合に話が運んだわけではない。けれども、ことの次第を再構成するとこうなる。で、具体的にどのように変えるか。それが第8章・第9章で述べた部分ということになる。こうして、社会福祉の「原理」を押さえつつ、具体的な制度の話にもっていく。そういう流れで話を進めていったはずだ。難しくはない。単純な話だ。

現実から言うか/それとも

 ただ実際には、一つひとつについて、「現実」から言っていくか、「べき論」を言っていくかで違う。このことも説明しがら話していったのだが、それがどこまで伝わったかとなると、こちらはすこし自信が減る。
 例えば、(1)家族。家族が死んでしまって、そこまでいかなくとも金・人手がなくてやってられないから、ということではあった。また例えば(4)ボランティアといっても、実際にはそれはあてにならない、絶対的に足りないというのが現実ではあった。
 しかし、では、もし足りたらどうなのか。その場合にはそれでよい、と言うか。私の場合の答は「言わない」なのだが、それはどうしてか。
 そんなことに踏みこんでいくと、話がすこし「高度」になる。しかしそれにしても順番を踏んで考えていけば、言っていけば、誰にだってわかる話だ。そして大切な話である。それは、大変で悲しいから、というところから話を始めてしまうと、それを言い続けねばならないことになったり、適当なところで(たとえば「最低限」で )話が終わったりしてしまうからでもある(このことは今度新しく書いた章でも手短かに述べている)。私はそう思うから、そういう話をしながら進めていった。すると、さっき記した受験対策を入れて十五回分の講義には十分になる。そうして何年かやっていた。
 ちなみにそのすこし「高度」な話は、『生の技法』ではわりあいさらっと書いてある。それでまずは十分だと思うのだが、もうすこし議論を辿っておきたいという人には別の書き物もある。
 まず(1)家族(に関わる義務・権利)については『生の技法』の初版と第2版(増補改訂版)の間あたり(一九九〇年代前半)に考えて書いたものがあって、それらはずっと論文のまま、ほぼ知られることもないまま、ほっておかれていたのだが、その後に書かれたものなども含め、2011年、『家族性分業論前哨』という題の本で生活書院から出してもらった。こんどの『支援』Vol.3の特集が「家族」で、そこでの書き手・話し手たちのまっとうになやましい対し方とはまた違う割り切り方で書かれた本だが、それはそれとして意味があると、私は、思っている。類書がいくらでもあるようで、じつはない。「家父長制と資本制」といったことに関係する議論・本がそのころ(私が書いていたころとその以前)いろいろとあったのだが、その話は――大切な話だったはずなのに――なんだかいつのまにかよくわからなくなっている。その「決着」は?、と思わないだろうか。ということで書いた。しかし私は不勉強なので村上潔さんが90冊の本を取り上げ紹介してくれているブックガイドもついてる。手にとっていただければと。
 (4)(そして(2)(3))について。ボランティアでまにあうかどうかという問題と別に、(まにあうなら)本来はそれがよいという論と、(まにあうとしても)よくないという論がありうる。じつは『生の技法』では主題的にとりあげられていないが、こういうふうに「も」捉えることのできる「論争」が、長いこと、障害者運動のなかにはあった。つまり、本来はボランティアとしてというか、無償で、自然に、なされるのが望ましいという主張と、そうではない、「公的介護保障」を要求するのだという主張とがあってきた。私はいくらか考えて、たんに足りる足りないというだけでなく――もちろん「量」の問題は「質」の問題にも、「力関係」の問題にも関わってくるのだが、それだけでもなく――「有償派」を支持することにして今に至っている。それは権利の実現のされ方、義務の公平な果たされ方を考えていくとそうなるだろうという論拠で、だ。
 ただこの主張についてはもっともな反論も依然としてある。私たちのところで仕事をしてくれて、この4月から東京理科大学の教員になった堀田義太郎さんが、今どき、というとしかられそうだが、「無償派」である。それで、このことについて私が、『現代思想』でさせてもらっている「連載」――いまはなんと精神医療の話になってしまっている――の一部でそのことをとりあげた部分と、堀田さんがやはり『現代思想』に書いたものをもとにした文章と、それらを合わせた(+α)の本『差異と平等――障害とケア/有償と無償』(青土社、2012)として出してもらっている。
 まずだいたいのところを知ってもらうということであれば、『生の技法』でと思う(今度、新しく書き加えた2つの章についてはまた補足する)。それに加えて今記したようなことについて考えてみたいという方は、これらの本にあたってみてください。


 
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■生活書院の本×3

『支援』Vol.3,2013/03/ 生活書院,328p. ISBN-10: 4865000054 ISBN-13: 978-4865000054 [amazon][kinokuniya] ※

◆立岩 真也・村上 潔 2011/12/05 『家族性分業論前哨』,生活書院,360p. ISBN-10: 4903690865 ISBN-13: 978-4903690865 2200+110 [amazon][kinokuniya] ※ w02, f04

◆安積 純子・尾中 文哉・岡原 正幸・立岩 真也 2012/12/25 『生の技法――家と施設を出て暮らす障害者の社会学 第3版』,生活書院・文庫版,666p. ISBN-10: 486500002X ISBN-13: 978-4865000023 1200+ [amazon][kinokuniya]

『支援』Vol.3表紙    『家族性分業論前哨』表紙    『生の技法――家と施設を出て暮らす障害者の社会学 第3版』表紙