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【Web連載】


『私的所有論』の登場人物・3(生命倫理研究会/青い芝の会) 連載:予告&補遺・23

立岩 真也  (2013/11/07)
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  前々回、前回はかつてあってなくなった「生命倫理研究会」という研究会――についてはまたそのうち――でシンポジウムを行なったときに、奥山幸博さんが米本昌平さんを批判する発言をしたこと、それを『私的所有論』で引用したことを紹介した(今出ているのは第2版だが、引用したのは1997年)。
  そして、その奥山さんは、かつて「視覚障害者労働問題協議会(視労協)」という組織にいた。同じくそのメンバーだった宮昭夫さんの文章から引用した箇所を紹介した。それを2人と始めた堀利和さんと10月23日に話をさせていただいた。成り行き的にあまり視労協のことをうかがうことはできなかったのだが、ある就労闘争をきっかけに結成された、数十人というほんとに小さな組織だったという。その組織の歴史について宮さんが書かれた文章もあるから、この話はいったんここまで。
  その奥山さんに文句を言われたのは米本昌平さんだったと記したが(以下全般、敬称略)、その米本が代表をつとめていた(というようなきまりがあるような形式の整った組織ではなく、やはりごく小さな)組織、「障害学研究会」のシンポジウムの場でだった。
  その研究会では、生命倫理研究会生殖技術研究チーム著ということで『出生前診断を考える――1991年度生殖技術研究チーム研究報告書』というものが1992年に出された。(その問い合わせ先になっている三菱化成生命科学研究所の米本・ぬで島のいた部門はだいぶ前になくなってしまい、報告書ももう入手できなくなっていると思う。)その研究会でなにをしていたのか、はなはだおぼつかないのだが、ごく小規模な集まりだった。今は私と同年代ぐらいでそういう方面の研究をしている人たちが幾人かいた。その報告書の執筆者では、米本以外に、中嶋京子、齋藤有紀子柘植あづみ市野川容孝といった人がいる(執筆者順)。
  私は「出生前診断・選択的中絶に対する批判は何を批判するか」という文章を書いている。それは『私的所有論』の第9章の一部に使われているのだが、出生前診断・選択的中絶について、それを批判した人たちがどんなことを言ったのかを紹介している。いま、第9章の文章との異同を確認していないが、引用などはほぼそのまま使っている。
  その研究会は、その報告書を作るにあたって、「神奈川青い芝の会連合会」の人たちと合同の研究会というか、集まりをもったことがある。今年逝去された横田弘、また小川正義もいた。なにかのきっかけで米本は横田を知っていた。わりあい旧知の仲、であるようなやりとりであったような気がする。そして、その集まりには神奈川青い芝の女性の会員も参加され発言されていた(どの方がいらしたかわかったら後日報告)。
  それには、青い芝の会の発言といっても結局は男の言い草ではないかというまずはもっともな認識があって、だからというところもあったのだと思う。ただそのことばかり言うとそれもまたすこし公平を欠く。「CP女の会」というのがあって、それはそもそもは、一九七四年、青い芝の会神奈川連合会の婦人部として結成されたのだという。やはりとても小さな集まりだったが、それなりに活発な発言をし、1994年には20周年ということで、CP女の会編『おんなとして、CPとして』 を刊行している(このへんについては瀬山紀子の報告がある)。とみていくと、私たちが報告書を出した時期のほうが早いということになる。順序をまちがって記憶していた。
  このことは報告書の註には次のように記されている。@CDGは引用している文章の番号。いずれも『私的所有論』に引用されている。

  「☆02 @CDGの横塚晃一・横田弘・小山正義はいずれも、青い芝の会神奈川県連合会及びその全国組織の中心的な会員として活動を行っていった。横塚は1978年に死去した。横田・小山は現在も神奈川県で活動を続けており、生命倫理研究会は1990年に両氏を含むこの会の会員に聞取り調査を行った。注04の文献を参照のこと。」
  「☆04 こうした障害者の運動の展開過程とその主張については立岩[1990a]、さらにこの後の「自立生活運動」と呼ばれる試みについては、この文章を含む安積他[1990]を参照されたい。」

  ☆04の文献は『生の技法』とそこに収録されている第7章「はやく・ゆっくり――自立生活運動の生成と展開」を指している(この章は1990年の初版のまま)。

  引用は次のようなもの。

  @「…君たち障害者として大変な思いをして生きているにもかかわらず君らと同じような境遇を背負った子供を残したいのか。」(小山正義に対する厚生大臣斉藤邦吉の発言 横田弘[1979:83])
  C「…生き方の「幸」「不幸」は、およそ他人の言及すべき性質のものではない筈です。まして「不良な子孫」と言う名で胎内から抹殺し、しかもそれに「障害者の幸せ」なる大義名分を付ける健常者のエゴイズムは断じて許せないのです。」(ビラの一部→横田弘[1979:71])
  D優生保護法「改正案によると「障害児」とわかったとたん、しかも母親の胎内にまでさかのぼった状態で天下晴れて”合法”の名のもとに抹殺できるわけです。この法律でいうところの不良な子孫とは一体誰にとっての不良なのでしょうか。生産第一主義の社会においては、生産力に乏しい障害者は社会の厄介者・あってはならない存在として扱われてきたのですが、この法律は文字どおり優性(生産力のある)者は保護し劣性(不良)な者は抹殺するということなのです。つまり生産性のないものは「悪」ときめつけるのです。…どんじりを抹殺したところで次から次へとどんじりは出来て来て、それはこの世に人間がたった一人になるまで続くでしょう。私は、私自身を「不良な者」として抹殺したあとに、たとえどんなに「すばらしい社会」ができたとしても、それは消された私にとって知ったことではありません。」(横塚晃一「優生保護法と私」『青い芝』16(1972.9)→横塚[1975(1984):108,110])【→2007:129,132】」(以上『私的所有論 第2版』,pp.626-628、【 】内は第2版に付した補記、横塚[2007]は生活書院版の『母よ!殺すな 新版』
  「G「私はなにもことさら障害児を産めとは言っていない。しかし、女性たちの心のどこかに「障害児は不幸なのだ」、「障害児が産まれることは大変な負担になるのだ」という心の動きが残っているとしたら、そういう心の動きの上にたつ「産む・産まないは女性の権利」という主張を絶対に認めるわけにはいかないのである。」(横田弘[1983:25])」(『私的所有論 第2版』,p.636)

  結局青い芝の会関係の発言は男の人たちのを拾っているということになる。「リブ」とか「ウーマン・リブ」と呼ばれていた人たちものでは田中美津といった人の文章から引いていて、彼女がいた「リブ新宿センター」はマスコミでは一時有名だった「中ピ連(中絶禁止法に反対しピル解禁を要求する女性解放連合)」とは意見が違っていて、こちらが結局日本の女性たちの主張としては(マイナーななかでの)主流を形成していくのだといったことは、やはり長いことになるし、本でも最低限の解説はじつはしてあるのだ(pp.715-716)。また、横塚の引用における「優性」「劣性」という言葉の使い方も、遺伝学の用語的には違うとか、そんな解説も必要ないだろう(たしかに用語法としては違うのだが、「感じ」は十分にこれで伝わる)。
  あらためて出生前診断について、とくに何をということをここで言いたいのではない。それは長くなるし、だいたいは本のほうに書いてある。ただ、私は、優生保護法改訂(改悪)とそれへの反対の最初の波には立ち会わなかったけれども、1990年前後こんなぐあいであって、それが本の中身にも関係していたということである。この本は理屈の本であると私も思っているし、人もだいたいそう思っているようだ。ただその理屈を言うに際して、あったものがあったということ。そのことをこの3回ほどで記した。きりがないので、いったんこのへんでと思う。
  もう一つ、こういう日本ローカルな文脈とはまたすこし違う背景があって書かれた、そして読んでもらってないだろう章というのが第6章「個体への政治――複綜する諸戦略」と第7章「代わりの道と行き止まり」だ。これはこれで別に「解説」を書いた方がよいのかもしれない。それはまたそのうち。



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『私的所有論  第2版』表紙    『受精卵診断と出生前診断――その導入をめぐる争いの現代史』表紙    『母よ!殺すな 新版』表紙