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【Web連載】


これは腎臓病何十万人のため、のみならず、必読書だと思う・1 連載:予告&補遺・26

立岩 真也  (2013/07/17)
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  有吉玲子『腎臓病と人工透析の現代史――「選択」を強いられる患者たち』が出版された。
  この本は私の勤め先(立命館大学大学院先端総合学術研究科)に提出された博士論文がもとになっている(だいぶ書き足されて充実度が増している)。私はかなり多くの人たちの博士論文に関わってきているけれども、そのうち何本かが、そして私が直接指導・審査に関わらなかったものも含め、「現代史」に関わったものであり、それらのいくつかが本になっている。題名も――あまり意識してなかったのだが、いまみてみると――そんな題になっているものが何冊かある。生活書院刊のものでは、定藤邦子『関西障害者運動の現代史――大阪青い芝の会を中心に』(2011)、利光惠子『受精卵診断と出生前診断――その導入をめぐる争いの現代史』(2012)、田島明子『日本における作業療法の現代史――対象者の「存在を肯定する」作業療法学の構築に向けて』(2013)。他に天田城介他が関わった共著・共編の本など。これらについては別の回で紹介する。ついでに、私の新刊にも「現代史」が付されているから書名だけ。『造反有理――精神医療現代史へ』 (2013、青土社)。
  しばらくは有吉の本について。「これは腎臓病何十万人のため、のみならず、必読書だと思う」というのはその本の「序文」を依頼されて私が書かせてもらった短文の題で、そのとおりに思っている。よって買うべし、と言えばそれですむのだが、その拙文を、もったいぶることもないのだが、これから3〜回に分けて、掲載していく。

  ――以下――

いきさつ
  序章に記されるように、筆者は、京都市内の人工透析を行なうクリニックで長いこと働いてきた看護師であり、私が勤める大学院に二〇〇六年度に入学し、二〇一一年度に博士号を取得した。毎日仕事しながら六年でだから、私たちの「相場」としてはずいぶん集中的に研究されたことになる。たしか当初は、透析して暮らす人の日常世界といったものを対象にしようとも考えていらしたのだが、ただ、そんな人たちはなにせたくさんいるから、なんとはなしでもイメージはつかめるところがあって、それを論文にしていくのは意外と難しいのではなかろうかということにだんだんとなったのだと思う。そして筆者は当初から、透析の今後についてそんなに楽観できないという感触を現場に長くいてもっていた。獲得されたものがこれからはそのままでは行かない兆候が見えていた。とするとそれはどのように獲得されたのか。そうした経緯を調べることになった。
  私が大学院のMLに配信したメールのすべてはHPに保存され見られるようになっているのだが(→HP「生存学」表紙「eMAILs」)、そんなものを振り返ってみてみると、(私がなんとなく思っていたのと違い)筆者がそういう方向でいくことになったのは、こちらに入学された後、わりあい早い時期であったようだ。

  「[…こちらのHPの頁をいろいろと紹介…]とみてくると、「日常」を明らかにするというの(社会学の人がよくやる方向)は、意外と難しいかもしれず、かえって、医療経済とか、生活習慣病予防とか、そういう「政治」「経済」的なところから、(透析はお金がかかるから、予防で対処とか、途中でやめましょ、とか…)まずはざっとお勉強していくとけっこういろいろ出てきそうな気がします。難しそうに思うかもしれませんが、たぶんこっちの方がじつは楽で、かつおもしろい話ができるだろうと(私は)思います。/あと、昨年から腎臓病の全国組織から機関誌が送られてきていることをいま思い出しました。/以上とりあえず。立岩」(「透析/糖尿病」、2006年6月23日 http://www.arsvi.com/0r/2006p4.htm#2294、BASはBody and Society 研究会(現在休止中)、矢吹さんは矢吹康夫さん)

  その後は、たまたま手にした文献で関連する記述を見つけたらお知らせしたりした。(こういう研究ではそれは意外と大切だ。腎臓とか透析とかタイトルにない本になにか書いてあることがある。これは一人ではなかなか見つからない。皆があの人はこんな研究をしていると知っていると、たまたま関連する記述を見かけた時に、それを知らせることができる。)それから、HP上で年表を作ること、ただたんに項目を並べるだけではなく、文献からの引用等、中身をできるだけ書き込んだファイルを作って増補していくことを勧めた(それは現在もある→「生存学」→http://www.arsvi.com/「人工透析」等で検索)。私がしたのはそんなことだけだった。例えば以下

  「http://www.arsvi.com/b2000/0106nk.htm
  に透析関連の文章ありました。短いですが。この本、たぶん火曜に資料室においときます。[…]/あと短くですが宮崎県立病院人工透析拒否訴訟についての言及もあり。統合失調症の人が透析を拒否されて、という事件です。文献いくつかあります。
  http://www.arsvi.com/d/a03.htm
の1991〜1992年あたり[…](そろそろファイル分割した方がよいようですね[…])
  これについて、有吉さんでなくても、1月あれば、そう苦労せず有意義な論文書けると思います。誰かやるとよいと思いますが。相談に応じます。 立岩」(「透析関係」、2007年11月24日 http://www.arsvi.com/0r/2007p7.htm#5924

  ――今回はここまで――

  これはどうやってものを調べるかということでもある。もちろん論文を書くにあたっては既にあるものを網羅的に調べるようにと指導されるはずであり、このごろはオンラインで学術論文の類は実際かなり調べることもできるから、調べることになる。それは当然として――などと言って私自身はあまりその当然のことをしないのでよくないのだが――、それでなにか得られるかというと、この有吉の本の場合はほとんど出てこなかった。(もちろん医学論文は夥しくあるが、それで知れることはごく限られている。)
  ただ、ないということは、研究者にとってはわるいことではない。論文は「オリジナリティ」というものを求められる。べつに学問的な文章に限ったことではない。他の人がすでに書いてくれているなら、なにも新しくものを書いて世の中の紙を増やす必要もない。ないから書く。しかし材料・手がかりがどこにもないのであれば、やはり書けない。有吉の研究の場合は、上記のように全国腎臓病協議会(全腎協)」の機関誌がまず読むべきものとしてあった。(この組織の機関誌『ぜんじんきょう』は、有吉の研究とはすこし別に、拙著『ALS』書評を掲載していただいのがきっかけだったか、だいぶ前からお送りいただいていて、「書庫」と呼ばれている場所に整理・保管させてもらっている。)ただ、この組織そのものが、透析に関わる負担軽減を目指して発足した組織である。その前にはこの組織そのものが存在していない。それでも過去を振り返る記事はかなりあるから使える。さらに関係者に話をうかがうことができる。そして本もないではない。そして医療費自己負担の軽減につながるキャンペーンをはったのは『読売新聞』(大阪本社版)なのだが、その今から40年以上前の記事も入手することができる。
  それ以外に、題名からはそれとわからない本のなかに出てきて、たまたまそれを目にすることがある。私は大学院の――でなくてもよく、研究者・もの書きのつながり――の果たせる役割の一つはそういう情報を交換することにあると思う。上記の中谷謹子の本にある記述がそういうものだった。私の場合は、そうした情報はほとんどの場合、他の人たちも知っていた方がよいものなので、個々人に知らせるより、MLに知らせるようにしている。他には、私も含め3人へのインタビューによって構成されている『生存権――いまを生きるあなたに』という本が2009年に――私がもう忘れたころ、当初出るはずだったのと別の出版社から――出たのだが、その3人のうちの1人が尾藤廣喜さんで、彼は1970年に厚生省に入省して、わりあいすぐに辞めて弁護士になるのだが、人工透析の公費負担に関わって厚生省時代に彼が関与できごとについて語っている。「へー」と思って、そこをその本の(HP上の、上記の)ページに引用してお知らせしたりした。そんなふうにして時間をかけて集めていく。
  そうして本書は、類書がないのだから、そもそも比べられようもないのだが、人工透析をめぐって何が起こってきたのかを知ることのできる唯一の本になった。

 
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■生活書院の本×3

◆有吉 玲子 20131114 『腎臓病と人工透析の現代史――「選択」を強いられる患者たち』,生活書院,336p. 3200+160 ISBN-10: 4865000178 ISBN-13: 978-4865000177 [amazon][kinokuniya] ※ a03. h.
◆定藤 邦子 20110331 『関西障害者運動の現代史――大阪青い芝の会を中心に』,生活書院,344p. ISBN-10: 4903690741 ISBN-13: 9784903690742 \3000 [amazon][kinokuniya] ※ dh. ds.
◆利光 惠子 20121130 『受精卵診断と出生前診断――その導入をめぐる争いの現代史』,生活書院,339p. ISBN-10:4865000038 ISBN-13:978-4865000030 \2940 [amazon][kinokuniya] ※

『腎臓病と人工透析の現代史――「選択」を強いられる患者たち』表紙    『関西障害者運動の現代史――大阪青い芝の会を中心に』表紙    『受精卵診断と出生前診断――その導入をめぐる争いの現代史』表紙